若い頃はどれだけ運動しても、どれだけ仕事をしても、体も心も回復するのが早かった。もう体が動かないというぐらいスポーツをしても、たくさん食べてたくさん眠れば数日で回復した。夜遅くまで仕事をしてそれなりにストレスを感じても、美味しいものを食べてドライブやツーリングに行けば割とすぐにリフレッシュできていた。
時が経って年齢が高くなってくると、体の疲れはなかなか抜けず、精神的に疲れるとそのダメージから抜け出すのに一苦労する。体と心は繋がっているので、そのどちらかの回復が遅れるともう一方も回復が遅れるということだろう。しかし、歳をとったことによって疲れを上手に逃す術を覚えるとともに、ストレスを感じても上手にコントロールすることを覚えてきた。
心が疲れた時には好きな本をのんびりと読む。そうすることで、セルフコントロールが出来ることを長い経験で知っているというのも強みの一つだろう。
重松清さんの書かれた「 ビタミンF」は、日常生活の中にあるちょっとしたすれ違いや勘違いなどを題材にした家族小説だ。
若い頃の熱量をすっかり忘れてしまった男性とその妻、完璧な父親だと自負していた男性とその家族、愛娘を快活で人気者だと信じて疑わない夫婦など、どこにでもある“普通”の家族に起きる様々な出来事。どれも他愛のないことから始まったちょっとしたすれ違いや勘違いが、時間が経つに従って大きな歪みやひずみになっていく。それでも、ぐっと堪えて難局を打開するべく悩み、振り返り、頑張る姿には読んでいて共感を覚える話ばかりだ。
7組の家族を題材とした7つの短編集は、読み進めるうちにじんわりと心に響いてくる。著者の重松清さんは「ひとの心にビタミンのようにはたらく小説があったっていい」として、Family、Father、Friend、Fight、Fragile、Fortune、Fictionという「F」で始まる言葉をキーワードとしてこの短編集を書かれたのだそうだ。その想いの通り、疲れた体や気持ちにじわっと染み込んできて、「また頑張ろうかな」と思える素敵な一冊だった。