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心温まる連作短編集「ひろいもの」(山本甲士)

元来おっちょこちょいでボーッとしているので、子どもの頃からよく落とし物をしていた。学校帰りにハンカチを無くしたり、机の引き出しに筆箱を忘れたりしては母に怒られていたことを思い出す。大人になってもふとした時に落とし物をすることがあって、電車の網棚にカバンを置いたまま駅で降りてしまったり、旅先で買ったお土産を電車の座席下に置いたまま忘れたりと、はなはだ情けないかぎりだ。

それでも、どこで落としたのかがわからない場合は別にして、電車や駅に置き忘れたものはほとんどのものが返ってきた。よくよく考えてみるとそれはとても素晴らしいことで、少し大袈裟な言い方かもしれないが、そういう国に生まれて良かったなと思う。そもそも落とし物や忘れ物をしないのが一番なのだが、注意していても時が立つにつれて注意散漫になってしまうと言う、持って生まれたものが災いしているのだろうと思う。 

ひろいもの (小学館文庫)

 山本甲士さんの書かれた「ひろいもの (小学館文庫)」は、ふとしたことで拾った物がきっかけとなって人生が徐々に変わっていくという物語だ。5つの短編が一冊になっているのだが、それぞれの物語がどこかでつながっていると言う、人生を感じさせるような素敵な連作短編集だ。

 対人関係に自信が持てない、気の弱いバイト店員の男性。接客をすれば相手を怒らせ、店長にはさりげなく肩たたきをされるほどうまくいかない毎日だった。そんな時、帰り道で拾った革製のセカンドバッグを拾ってしまう。交番に届けようと思ったものの腰が引けてしまい、結局自宅に持ち帰って自力で落とし主を探すことになってしまう。しかし、そのことが彼の毎日を徐々に徐々に変えていくきっかけとなった。

そのほか、毎日のアルバイトに追われる女優や喧嘩ばかりで転職を繰り返す短気な男性、いじめが原因で引きこもり生活を送っていた若者、恋人の突然の死に現実を受け止めあられない女性など、苦しく悲しい想いで日々を少していた人たちが、思いがけず手にした「ひろいもの」で人生が好転していく。

 山本甲士さんの物語は心温まるものばかりだが、この連作短編集も「こうなると良いな」と思えるような展開になっているのが嬉しい。しかし、だからといってストーリーが単純なわけではなく、「この出来事がここでこう繋がるんだ!」と言うような意外性を感じさせてくれる内容ばかりだ。

人生には不思議な出会いや不思議なご縁があるものだが、もしかしたらこの物語のように人生が好転していくような思いがけない出来事があるかもしれない。そんなことをふわっと思わせてくれる、心温まる連作短編集だった。 

ひろいもの (小学館文庫)

ひろいもの (小学館文庫)