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読んでほっこり「花桃実桃」(中島京子)

九州の田舎町にある私の実家は、元々は4世帯が入るこじんまりとしたアパートだった。自営業を営んでいた両親が副業として運営していたアパートで、近くの小学校に勤める先生などが住んでいた。田舎のことなので家賃はかなり安くて、土地建物のローン返済と修繕費などを支払うと家賃収入はほとんど消えてしまっていたのではないだろうか。それでも世話好きだった両親は、大家さんとして店子さん達と楽しくやりとりしていたようだ。

時が過ぎて、高齢となった両親は営んでいたお店を廃業し、貸していたアパートの2階を改築して住むようになり、そのうち1階の住人にも退去してもらい、物置や仲間の集まる趣味の部屋として活用するようになった。二人で四世帯分の広さを使っていたので豪勢な話だが、若い頃から働き通しだった人生の中でのんびりとした時間を過ごすための空間だったのだろうと思う。

数年前に両親が相次いで亡くなったため今では空き家となってしまったが、時々部屋に風を通すために実家に足を運ぶと、両親が生活していた頃の名残があってしばし佇んでしまう。建物も人が長く住むと意思を持つような気がしてくるから不思議だ。

花桃実桃 (中公文庫)

平台に載せられていた中島京子さんの「花桃実桃 (中公文庫)」は、今の季節にぴったりの暖かな雰囲気の素敵な表紙だ。シングル女子で43才の花村茜が、ひょんなことでアパートの大谷さんになった物語だが、その表紙と同じくとても暖かくて優しい気持ちになることのできる一冊だった。 

43歳シングル女子、まさかの転機に直面す―会社勤めを辞め、茜は大家になった。父の遺産を受け継いだのである。昭和の香り漂うアパート「花桃館」で、へんてこな住人に面くらう日々が始まって…。若くはないが老いてもいない。先行きは見通せずとも、進む方向を選ぶ自由がある。人生の折り返し地点の惑いと諦観を、著者ならではのユーモアに包んで描く長編小説。 

主人公の花村茜は、43才独身、勤めていた会社も辞めて父親の遺産となったアパートに大家さんになるが、バリバリと働くわけでもなく、かといってダラダラしているわけでもないという、少し頑固なところがありながらものんびりとした性格の女性だ。

彼女が引き継いだアパートには、売れない音楽家やシングルファーザーのフリーライター一家、大学の外国人講師や整形美人の女性など個性的なメンバーが住んでいる。それぞれの住人が繰り広げる出来事が、茜の視点から物語として綴られていて、連作短編のような面持ちの一冊となっている。

それぞれの物語を通じて、茜をはじめとした住人達のキャラクターが浮かび上がってくるが、それぞれに問題を抱えていながらもどこか憎めなくてふんわりと優しい、そんな人々が集まっている。大きな事件が発生するわけではないが、自分の周辺でも起こりうるような出来事が起こり、読み終った時にはふんわりと暖かい気持ちになった。

今の季節のように徐々に心が暖かくなる、そんな素敵な物語だ。

花桃実桃 (中公文庫)

花桃実桃 (中公文庫)

  • 作者:中島京子
  • 発売日: 2014/07/25
  • メディア: Kindle版
 

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