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読後に爽快感や暖かさを感じる意外性のある一冊「バック・ステージ (角川文庫)」 芦沢 央

5年ほど前まで東京の下北沢にほど近い場所に住んでいた。 20年前から15年ほど住んでいたのだが、休みの日にぶらぶらと散歩に出かけたり買い物で訪れたりしていた場所だ。当時は私自身が若かったこともあってか、下北沢の人の多さも雑然とした雰囲気も楽しかった。最近では人の多さに辟易としてしまうが、休憩がてらに家族で立ち寄っていた小さなパン屋さんは、今でも健在でなんだかほっとしてしまう。

下北沢といえば小劇場でも有名だ。下北沢で一番古いザ・スズナリや下北沢を代表する本多劇場、駅前にある駅前劇場や元映画館のシアター711など、駅から少し歩いただけでいくつもの小劇場を目にすることができる。公演前には入場するために並ぶ人々の姿が、公演後には出待ちをする人々の姿が見えて賑やかだ。

下北沢に限らず、劇場のある街には何ともいえない活気がある。それは夢を追い求めて演劇に携わる人々の熱気なのか、それを応援しようと訪れる人々の熱気なのか、またはその双方なのか。それだけ、演劇というステージには言い表しようのない不思議なパワーがあるのだと思う。

バック・ステージ (角川文庫)

芦沢央さんが書かれた「 バック・ステージ (角川文庫)」は、「劇場」がキーとなって登場する物語だ。劇団員や劇団自体が物語の中心ではないのだが、物語が進んでいく中で非常に重要な役割を担ってくる。また、いくつかの話で構成されたオムニパス形式の物語でもあり、一度にたくさんの物語を楽しめるという面白さもある。 

新入社員松尾は忘れ物を取るために戻った夜の会社で、上司の机や書棚をゴソゴソと探る先輩社員の康子に遭遇する。康子はパワハラ上司を追い詰めるために、不正を行なっていた証拠を探していたのだが、松尾も康子に不正探しの片棒を担がされることになってしまう。康子は役者顔負けの変装術で上司の子どもをターゲットにして、不正の証拠を得ようと画策し始める。一方、中野にある劇場では松尾たちの会社がプロモーションする舞台が始まろうとしており、その舞台を見るために振られた彼女を待つ青年がいたり、劇場の中では脅迫状を受け取った役者が居たりと、それぞれに何かしらの悩みや事件を背負った人々の物語が展開していた。そして、それらの問題が解決していくことによって、松尾と康子が追っていた問題も一気にエンディングを迎えることになるのだが。

松尾と康子の「上司の不正に関する証拠を探す」という物語を縦軸に、シングルマザーや若き劇団員などのここの物語を横軸にして展開するのだが、横軸それぞれの物語にもミステリー要素が含まれていて面白い。また、横軸となる物語のエンディングも縦軸となる物語のエンディングも、どちらも爽快感や温かいものを感じられるのが良い。

芦田央さんといえば、どんでん返しの連続で読者の予想を大きく裏切る物語を書かれる作家さんだが、今回の物語も意外な結末の連続に驚かされる。また、それ以上に意外だったのがラブコメ的な要素が含まれているという点だ。芦田作品を読み込んできた方には、良い意味で意外性が感じられるのではないだろうか。

またひとつ、芦田央さんの作品ジャンルが広がったような感じがするし、ファンとしては読み進める楽しみも増えてきたように感じる。

バック・ステージ (角川文庫)

バック・ステージ (角川文庫)