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「検事の信義」(柚月裕子)、孤高の検事の崇高さに感じ入る一冊

悪いことをするとお巡りさんに連れていかれる。悪いことをすると牢屋に入れられる。子どもの頃、何回そう言われたことか。それだけ言うことを聞かない、やんちゃな子どもだったのだろう。いま考えると、その頃の「悪いこと」はかなり漠然としていて、大人が「悪い」と言えばそれが悪いことになっていたような気がする。

少し年令が上がってきて小学校上級生ぐらいになると、「悪いこと」にも程度の差があることに気がついて、これぐらいなら警察には捕まらないだろうという妙な悪知恵がついてきたりする。自分で暴力を振るうわけではないが、力でで悪者をやっつけるヒーローに憧れたりした。ブルース・リーは私世代のヒーローど真ん中だ。

大人になってくると、「仕方なく悪いことをしてしまうことがある」ということに気がつく。周囲の環境であったり精神的なストレスであったりと理由は様々だが、悪意のない普通の人が突然事件を引き起こしてしまう事がある。そんな事件の概要を知ると思わずやるせない気持ちになるが、だからといって何ができる訳でもなく、ただただ世の中を嘆いてしまうのみだ。

検事の信義

 柚月裕子さんのデビュー10周年記念作品となる「検事の信義」は、累計40万部を突破するという佐方貞人シリーズの最新作。今回も前作までと同様に、孤高の検事の崇高さに胸を揺さぶられる一冊だ。

検事である佐方は「罪はまっとうに裁く」という信念のもと、自分が納得するまで事件を調べる孤高の検事。検察内の上下関係や警察との関係際など意に介さず、起訴案件として回ってきた事件に不審な点があると徹底的に調べる佐方。今回も様々な事件を徹底的に掘り起こす短編集となっている。

「裁きを望む」では一旦窃盗犯として逮捕、起訴されながらも一転して無罪判決となる男性を、「恨みを刻む」では麻薬の常習犯として逮捕された男性を、「正義を質す」では恐喝罪で逮捕された暴力団員を、そして最終話であり最も話の長い「信義を守る」では痴呆症の母親を殺害した息子を徹底的に調べることで隠された真実を明らかにする。

特に最終話の「信義を守る」は、テーマが『介護』であり『低所得』である点が現代社会の闇に通ずるものがあり、それを意外なところから犯行動機を掘り下げていくところがすごい。

主人公の佐方貞人が持っている孤高の信念、高潔な精神が読む者の心を清廉にしてくれるような感覚を覚える。また、犯罪の裏にある人間模様などを掘り起こすことによって、事件の裏に隠された意外な事実が浮かび上がってくるのもワクワクする。さすがに人気のシリーズだけに、どの話も胸に響くものばかりだ。

検事の信義

検事の信義