先日、とある書籍の著者からサイン入りのクリアファイルをいただいた。白地なのでクリアではなくホワイトファイルと言った方が良いのかもしれないが、著者の直筆サイン入りというのはとても貴重でありがたい。
今回のホワイトファイルは増刷記念。これはめでたい!書籍全体の発売数が伸び悩んでいる中で、増刷されるというのは実に素晴らしいことだ。お祝いの意味を込めて、改めてご紹介させていただきたい。
働くこと、生きることは素晴らしいと思わせてくれる一冊
働くこと、生きることは素晴らしいと思わせてくれるのが、倉科透恵さんの書かれた「泣いて 笑って また泣いた」という一冊。自費出版から始まり、出版社から書籍化され、今回増刷になったというのは喜ばしい限りだ。
作者の倉科さんは、20代前半に統合失調症を発症し、それまで勤めていた会社を辞めざるを得なかったという経歴の持ち主。現在も治療を継続されているが、発症後にご本人が出会った人々とのやりとりや仕事のことなどを通じて、ありのままの自分を等身大で描いている一冊だ。
エピソードごとに章立てが行われていて、通院の様子やSST(ソーシャルスキルトレーニング)に通う様子、新たな職場でのやり取りなどが飾り気のない言葉で綴られている。どの話もなかなか深い内容なのだが、決して悲壮感が漂ってこないのは作者自身が何事にも前向きに取り組んでいる姿勢が垣間見えるからだろう。
また、文章も短いセンテンスに区切られていて、リズム良く軽妙に読み進めていくことができる。その軽妙さも読みやすさの一つになっている。
現在は西新宿の名刺製作所で働く彼女は、治療を続けながら日々色々なことに向かい合って頑張っている。会社の社長とのやりとりなども含めて読んでいて自然と笑顔になってしまう。
本のジャンルとしてはエッセーに分類されるのだろうが、読み進めていくうちに一人の女性の生き方を描いた物語として捉えるようになってしまう。一人称と三人称とが絶妙に入り混じっているのも、そう感じるひとつの要因なのかもしれない。
働いている会社も素晴らしい
物語の中心は都内某所にある小さな印刷会社だ。社員数名の小さな印刷会社は、名刺印刷を中心としていて、パワフルな女社長さんが切り盛りしている忙しい会社だ。そこに再就職した作者は病気を隠して勤め始めるが、体調をセルフコントロールしながらなんとか日々をすごしていく。
入社して一年が過ぎた頃に自分の病気をカミングアウトするのだが、それをすんなり受け止めてしまう会社も同僚も素晴らしい。大げさな言葉が連なっているわけではなく、「大丈夫、気にしないから」という社長の一言が妙に清々しい。そう、この物語には清々しさを感じる部分がとても多いのだ。だから、読んでいて元気をもらえるのだろう。
統合失調症は精神障害のひとつで、一般的には幻聴や幻覚、異常行動などが症状としてあげられる。しかし、症状は多岐にわたっており、個々人によってその種類や度合いが異なるのも特徴だ。だからこそ、一人一人を”統合失調症”として一括りにするのではなく、個別の特性をきちんと理解するというのがまずは大切だろう。
一般的に精神障害はある程度良くなってから就労を目指すとされているが、就労しながら回復させていくという方法もあるようだ。完全に回復するわけではなく「働ける状態にまで回復させる」ということであり、「働きながら障害に寄り添っていく」という考え方だろう。
当事者の自己認識、職場の理解と配慮、周囲の支えが揃った時に、この一冊のような「泣いて笑ってまた泣いた」という働き方と生き方ができるのだと思う。
※本記事は一部2016年5月2日の記事をリライト・引用しています。