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「アイネクライネナハトムジーク」(伊坂幸太郎)/時空を行き交う人と人との繋がりが美しい

人のご縁というのはとても大切で、そしてとても不思議なものだなと思う。

半世紀以上生きているとそれなりに人とのご縁ができるのだが、自分と相手とのご縁がその先で相手同士でも繋がっていることがある。また、10年以上前にいただいたご縁が、思いがけず再び繋がるということもある。

そういったご縁に心から感謝することが、生きていて大切なことの一つだろうと思う。

「アイネクライネナハトムジーク (幻冬舎文庫)」表紙

そんな、人と人とに不思議で素敵な「縁」を描いたのが、伊坂幸太郎さんの書かれた「アイネクライネナハトムジーク (幻冬舎文庫)」という一冊だ。一冊にまとめられた短編が一つの物語として繋がっていく、連作短編集という形式を取っている物語だ。

タイトルとなっている「アイネ・クライネ・ナハトムジーク」はモーツァルトが作曲したセレナードのひとつ。CMでも使われていて有名すぎるぐらい有名な曲なので、今さら曲自体の説明は必要ないだろう。日本語では「小夜曲」とも呼ばれていた曲だ。

そして、この連作短編集の最初の一話が「アイネクライネ」というタイトルで、最終話が「ナハトムジーク」というタイトルになっている。全部で六話の短編が一冊にまとまっているが、「アイネクライネ」で始まった人と人との繋がりが、最終話の「ナハトムジーク」で時空を超えて、過去と未来と人と人とが見事に繋がるという素晴らしい構成だ。

一つ一つの物語に出てくる人物は、どこにでもいるような普通の人々だ。いや、普通の人々よりも少しだけ不器用で、少しだけシャイで、それでいてまっすぐ前を向いて歩いている人々だ。

先輩の失敗で理不尽な仕事を片付ける羽目になったサラリーマン、電話だけのやり取りで相手に徐々に惹かれていく美容師、妻と子どもに突然出て行かれたサラリーマンなどなど、どこにでもいるようでなかなかいない、ピュアでシャイな登場人物。そんな登場人物たちに徐々に徐々に惹かれていくのは、読んでいる自分がピュアとかシャイとは正反対の性格だからかもしれない。

どの物語もそれぞれ素敵な結末を迎えるのだが、次の物語や次の次の物語のどこかで以前の物語の主人公が登場してくる。それが、前の物語で流れていた時間軸とは異なる時間軸で登場するので、主人公たちの過去や未来が行ったり来たりするのを知ることもできる。

第一話の「アイネクライネ」の中で、登場人物の一人が「出会いというのは、後になって『そういえばあれが出会いだったんだ』と気づくもの。例えば、風の音だと思っていたのものが実は遠くから聞こえたCDの音楽だったのかもしれないと思うようなもの」というような内容の言葉を話す場面がある。そして、「それってアイネ・クライネ・ナハトムジークのようなもの?」と繋がるのだが、そういった「素敵な出会い」が満載の物語だとも言える。

伊坂幸太郎さんの描かれる物語は、読んでいて幸せになるものばかりだ。心が栄養不足になったかなと感じた時には、迷わずこの本を読むと良い。急激に効き目の出る特効薬ではないが、じんわりと温かく体の中に広がってくれて自然治癒力を高めてくれるような、心と体に優しい成分で出来た薬のような一冊だからだ。 

アイネクライネナハトムジーク (幻冬舎文庫)

アイネクライネナハトムジーク (幻冬舎文庫)