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「145gの孤独」(伊岡 瞬)、終盤の展開に胸を突かれる

将来の頃は、将来の夢は何かと聞かれたら「ジャイアンツの選手になること」と答えていた。私が小学生の頃は、ちょうどジャイアンツが日本シリーズを9連覇し、いわゆる『V9』時代だったので、『野球選手』ではなく『ジャイアンツの選手』になりたいと思っていたのだ。私の故郷は九州鹿児島だが、そういう男の子はわりと多かったのではないだろうか。

月日は流れて、将来の夢が野球選手から宇宙飛行士になったり、かと思えば医者になったり、はたまた路面電車の運転士になったりと意味脈絡のない将来像を描いていた。結局は己の能力が人並みかそれ以下だということに10代で気づき、親元を離れたいがためだけに東京に就職するという手段を取った。

働きはじめてからは幾度となく仕事や対人関係に悩み、時には心を病みそうになった時期も何回かあったが、その度に心から心配して忠告してくれる人に恵まれ窮地を乗り越えられた。それは友人であったり親であったり、職場の上司や先輩であったりとさまざまな人たちだった。東京で働きはじめて30年以上経つが、ひとつの仕事でずっと頑張ってこれたのは、周りの人に恵まれて孤独を感じることがなかったからだと思う。ありがたいことだ。

145gの孤独 (角川文庫)

伊岡瞬さんが書かれた「145gの孤独 (角川文庫)」は、元プロ野球選手が主人公の物語。便利屋を営む元プロ野球選手倉沢のもとに舞い込む仕事一つ一つが短編になっており、それがつながって一つの起きな流れになるという連作短編形式の物語であり、ミステリー的な要素も併せ持った物語だ。

 プロ野球選手として活躍していた倉沢修介は、試合中にライバルの強打者にデッドボールによる怪我を追わせてしまい、その怪我が元で引退させてしまう。しかし、倉沢本人もその後がっくりと成績が落ち、結局自分も引退を余儀なくされる。

失意の最中に声をかけてくれる人が出てきたことから、倉沢は便利屋を開業し雨樋の修理や不用物の運び出しなどありとあらゆる仕事行うようになる。倉沢が立ち上げた便利屋は、デッドボールを受けて引退した西野真佐夫とその妹晴香と共に切り盛りしているが、西野はデッドボールの後遺症なのかほとんど仕事をするでもなく、事務所に一日いるだけの存在ではあった。

そんな便利屋の元に入った新しい仕事が『付き添い』。小6の子どもの付き添いでサッカーの観戦を行うが、サッカーに興味がない子どもと毎週水曜日に子どもの付き添いを頼む母親。その二人の間に入った倉沢が、不思議な付き添いの謎を解くとともに、母親の苦悩を結果的に取り除くことになる。その後、いろいろな『付き添い』の依頼が倉沢の元に届くことで、倉沢と西野、そして妹の晴香との関係に徐々に変化が起きてくるのだが。

デッドボールによってライバルの選手生命を奪った顛末や後悔が、いろいろな出来事を解決していくうちに徐々に読者に伝わってくるのだが、物語の終盤になるとそれが予想もしない方向に一気に流れていくのに驚かされる。ミステリーで言えば「大どんでん返し」というところだろうか。

それでも、苦悩を背負って生きていく主人公の真摯なあがきと周囲の理解や支え。人は孤独なようでいて、実は誰かに支えられているのだということを教えてもらった一冊だった。

145gの孤独 (角川文庫)

145gの孤独 (角川文庫)

  • 作者:伊岡 瞬
  • 発売日: 2013/08/08
  • メディア: Kindle版