季節が秋めいてくると「秋祭り」という言葉が思い浮かぶ。五穀豊穣を願って各地で行われる秋祭りだが、古の雰囲気を醸し出す静かな祭りもあれば、勇壮で興奮する祭りもある。
そんな「祭り」を題材とした物語を読んだが、思いがけないストーリー展開と快活なリズムを持ったとても楽しい一冊だった。
火の玉を転がせ!「ファイヤーボール」
今日ご紹介するのは原 宏一さんが書かれた「ファイヤーボール (PHP文芸文庫)」という一冊。頑張る人を主人公にした物語を数多く書かれている作家さんだけに、今回の作品も主人公を始めとして前向きで元気の良い人々が登場する。
咲元は世界中を飛び回るエリート商社マン。家庭をかえりみる余裕がないほどひたむきに働いていたが、社内の派閥争いに巻き込まれていきなり閑職に追い込まれてしまう。仕事が少なくなった咲元は毎日早めに帰宅することになるが、今まで家庭を振り返ってこなかっただけに妻にも娘にも息子にも邪険にされてしまう。
妻も働くようになったことから町内会の会合にも行かされるようになった咲元は、ひょんなことから町内会で新しい祭りをつくるはめになってしまう。最初はいい加減に考えていた咲元も、町内会を牛耳っている長老グループに反感を覚え、「馬鹿馬鹿しいほど熱中できる祭り」をつくることに奔走しはじめる。反対派の陰険な妨害にあいながらも前へ前へと進む咲元に、徐々に家族も町内の人々も協力を始めるが、、、。
物語の舞台は町内会という小さな集まりだが、そこに「祭り」という要素を持ち込むことで話が次々と展開していくのが面白い。また、主人公を取り巻く人々の中に、家族も含めて共感の輪が広がっていく部分も、読み進めながらワクワクしてくる部分だ。
最近では町内会という組織は形骸化されているところも多くて、「知っている人同士が仲良くやっている」というイメージも否めないが、都市部ではさらにそういったことが顕著なのではないだろうか。
家族のあり方や仕事への取り組み方、地域との関わり方をも考えさせてくれる物語だが、読み終わった時の爽快感はさすがに原宏一さんの作品だ。読むだけで元気になる一冊だった。
何かを始めるのはいつでも誰でもできる
祭りというと古来から続いているというイメージを持っていたが、この物語の中でも書かれていたとおり、数十年前に始まった有名なお祭りというのも数多くある。
何百年と続く祭も必ず始まりというものはあり、それを作り出すことも可能なんだということをこの物語を読んで教えてもらった。何かを始めるというのはかなりパワーが必要なことではあるが、だからこそ得られる達成感はものすごく大きいだろうと想像することができる。
そういったパワーは一人では出せるものではないが、一人一人は小さなパワーでも大勢の人が集まればものすごく大きなパワーとなって物事を進めることができる。 そのために必要なのは、まずは「熱い思い」であり「共感を得る努力」だろう。
最近ではクラウドファンディングで様々なプロジェクトが立ち上がっているが、これもまた大勢の人の想いを集めて成し遂げるムーブメントとのひとつだと思う。何かを始めるのに年令やお金や経験が必要なのではなく(もちろんあるに越したことはないが)、やり遂げたいという熱い想いだということをこの一冊から感じることができた。