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「わたしのいないテーブルで: デフ・ヴォイス」

手話を学び始めてからかれこれ10年経つ。その間に聞こえない友人や知人も増えて、ご本人たちの様々なお話を聞く機会が増えた。もちろん、手話学習の中でろう者をめぐる歴史や聴覚障がいに関する知識の習得もカリキュラムとしてあるが、ご本人たちの体験談は非常に参考になることが多い。

その中に「自分以外の家族は全員健聴者」という方が何人かいらっしゃって、幼い頃からの口話の学び方や家族とのやり取りなどについて教えていただく機会があった。それはかなり貴重なお話ばかりだった。

わたしのいないテーブルで: デフ・ヴォイス

丸山正樹さんが書かれた「わたしのいないテーブルで: デフ・ヴォイス」は、「デフ・ヴォイスシリーズ」の最新作だ。手話通訳士の荒井尚人を中心として、その家族や荒井を取り巻く人々を巡る出来事が綴られたミステリーだ。

荒井は家族がろう者で自分が聞こえるという環境で育ち、以前は警察に勤務していたが訳あって現在は手話通訳士として活動している。妻のみゆきは所轄の刑事なので、新型コロナウイルスの感染という危険にさらされながらも、現地での勤務をせざるを得ない。そのため、荒井は休校、休園となった二人の娘の面倒を見る必要があり、自身の手話通訳としての仕事をすることが出来なくなっていた。

そんな時、以前から関係が深いNPOから、女性ろう者が被告となっている事件に関する支援チームへの協力依頼が届く。女性ろう者が、口論の末に実母を包丁で刺した傷害事件だが、聴者で母親との間に何があったのかを紐解いていくうちに、聴者の家庭で育てられるろう者の孤独が浮き彫りになっていく。

丸山さんの書かれるデフ・ヴォイスシリーズは、手話を学んでいるものにとってはとても勉強になることばかりで、聴こえないことによる問題だけではなく、聴こえることによる問題や課題などを明確に示してくれる。物語はミステリー仕立ての連作短編が中心なので、読んでいてテンポ良く読み進める事が出来る。

何よりもこのシリーズの良さは、聴こえない人、聴こえる人それぞれに寄り添った描写が素晴らしく、また「誰も悪くないけれども、誰かが傷ついている」ということを読者に教えてくれるところだ。

この作品の中では「聴者の家庭で育ったろう者の孤独」が描かれているが、「聴者の家庭で育った聴者」にも孤独を感じる人は多いはず。自分自身に置き換えても胸が熱くなり、目頭が熱くなる場面がいくつも登場した。

手話を学ぶ人にもそうでない人にもぜひ読んでいただきたいし、ぜひシリーズの最初から読んでいただきたい作品群だ。