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“デフ・ヴォイス”シリーズ第三弾「慟哭は聴こえない」(丸山正樹)は心暖まる連作短編週だった

「手話を勉強しよう」と思ったのが6年前。同じ職場にろう者がいて、その人とスムーズに話がしたいなと思ったのがきっかけだった。

その頃、ちょうど地域の手話通訳養成コースが受講者を募集していたので、すぐに申し込んで初級コースから通い始めた。初めて学ぶ手話はとても新鮮で、講師の手の動きがまるで舞を舞っているように美しいなと感じた。それが手話を学び始めた時の率直な感想だった。手話特有の豊かな表情も、同様に素敵だと感じた。

学生の頃から語学はからっきしダメで、英会話などを勉強しても勉強してもなかなか上達しなかったし楽しいとも思わなかった。しかし、手話は音ではなく視覚で覚えて表現する言語だったからか、上手くなるかどうかは別にして学ぶこと自体がとても楽しかった。

その後、4年間一度も休まず手話教室に通い、ろうの方ともゆっくりながらも世間話が出来るようになった。しかし、転勤でろう者のいない職場に移り、故郷の父と母が相次いで亡くなりバタバタしているうちにすっかり手話が鈍ってしまった。何ごとも継続は力なりなのだと、改めてそう感じている今日この頃だ。

慟哭は聴こえない (デフ・ヴォイス)

丸山正樹さんが書かれた「慟哭は聴こえない 」は、手話通訳士が主人公のデフ・ヴォイスシリーズ第3弾。法廷の通訳も行う手話通訳士の荒井が、通訳業務や自身の家庭での出来事を通じて“聴こえない”ということは何かを伝えてくれる連作短編集だ。

荒井はろう者の親を持つ聴者、いわゆるCODA(コーダ)として生まれ育ってきた。兄もろう者であるため、家庭内では孤立しがちだった荒井も、警察官のみゆきと知り合い家庭を持つことによって心穏やかな日々を過ごすようになっていた。

そんなある日、医療通訳の依頼が入る。内容病院への同行通訳だったが、依頼者が女性であったための辞退した。しかし、派遣センターからの強い要望があったため現地におもむいたが、結局は診察室に入ることなく待合室での対応のみになってしまった。その後、再び同じ夫婦に同行通訳を依頼されることになり、若いろう者夫婦の初めての出産に関わることになる。ところがある日、出かけていた夫婦から緊急の連絡が入り事態は急変する。(「慟哭は聴こえない」より)

今回の連作短編集は殺人事件などの犯罪はなく、聴覚障害の男性モデルの話や会社を訴える女性の話、空き部屋でひっそりと亡くなっていた中年男性の話など、実際の社会で起きている事件や事故が取り上げられている。

その一つ一つが、どれも聴覚障害書を取り巻く深い課題を含んでいて非常に興味深い。聴覚障害当事者や手話を勉強している人なら、誰もがその内容に頷くだろう。むた、そうでない方でも、このようなことが世の中にはあるんだと言うことを改めて知り驚くだろう。

テーマとしては重いものばかりだが、読み終わったときの感覚はとても爽やかで暖かいものを感じる。それは、著者が聴覚障害に対して真摯に向き合っているからこそであり、良いことも悪いことも含めて、すべてを書き表そうという強い意志があるからに違いない。

そして何よりも、すべての人に対して分け隔てないフラットな考え方が出来る方だからこそ、登場人物に対する愛情を読者も感じるのだろうと思う。

 

慟哭は聴こえない (デフ・ヴォイス)

慟哭は聴こえない (デフ・ヴォイス)