気分はポレポレ よろず情報ブログ

大好きな文房具や書籍、日常のことなどを随時更新中です!

「境遇」(湊かなえ)胸に染みるヒューマンミステリー

お題「秋の夜長に読みたい本」

 子どもの頃から50才をすぎた現在まで、身の回りの環境というものがいろいろと変化してきた。生まれ育った九州鹿児島の地方都市では、子どもの頃は野原を走り回って遊びほうけいていたが、年齢が上がる従って見えてくる風景は徐々に変わってきた。仕事に就くために上京してからも、仕事にプライベートに様々な環境の変化があり、良いこともあれば悪いこともありながらこの年までまずまず健康に過ごすことができた。

 平凡だと思っていた自分の人生も、よくよく考えると小さいながらも山あり谷ありだったなと思うこともある。人は生まれた瞬間の境遇は選ぶことも変えることができないが、自分で生活し始めてからは自らの努力によって変えることができるのではないだろうか。そんなことを考えさせられる一冊を読んだ。

自分はいったい誰なんだろう

境遇 (双葉文庫)

 単行本の頃から読んでみたかったのが、湊かなえさんの「境遇 (双葉文庫)」という一冊。文庫化されて書店の平台に並べられていたので、迷わず購入して一気読みした。湊かなえさん独特の作品で、人の心の中にグイグイと入っていくような感覚を覚える。

 デビュー作の絵本「あおぞらリボン」がベストセラーになった陽子。県議会議員の優しい夫と5歳になるかわいい息子とに囲まれて、慌しいながらも幸せな毎日を過ごしていた。ベストセラーとなった絵本は、大学時代からの親友であり新聞記者でもある晴美が語ってくれた話。天涯孤独の晴美は、陽子の申し訳と思う気持ちを暖かく受け止め、親友として優しく接していく。

 そんな時、可愛い一人息子が誘拐され、選挙事務所に誘拐犯からの脅迫状が届く。脅迫状には「真実を公表しなければ、息子の命はない」という言葉が書かれており、それを夫の献金疑惑の件だと感じた陽子は、息子の命を救うために晴美の協力を得ながら独自に調査を始める。

 そんななか、夫の不可思議な行動や選挙事務所の不穏な動き、さらには陽子と晴美の出生にまつわる秘密がつぎつぎと浮かんでくる。似たような境遇で生まれ育った陽子と晴美の間には、切っても切れない出生と境遇にまつわる縁があった。

 この作品は、ABC朝日放送創立60周年記念スペシャルドラマの原作として書き下ろされた一冊。松雪泰子さんが陽子役となったこのドラマを、原作より先に観た方は多いのではないだろうか。 

 原作とドラマとでは少し設定が異なるが、湊かなえさん独特の人の心のなかを繊細に描いた物語は、読むものをグイグイと引き込んでいく。二転三転する物語は誰もが怪しく見えてきて、誰を信じて誰を疑えば良いのかわからなくなってしまう。

 物語は意外な展開を迎えるが、さらにラストには驚くような結末となる。読み終わった時には安堵のため息をつきながらも、人の絆は信じるべきなんだなということを感じた。読後のなんとも言えない感覚は、さすがに湊かなえさんの作品らしいなと思う。 

境遇 (双葉文庫)

境遇 (双葉文庫)

 

自分の境遇は自分で変えることができる

 生まれた時の境遇はどう転んでも変えることはできないが、働き出して自立してからは自分の行動や努力で境遇を変えることができると思う。

 「境遇」という文字を辞書で引くと、「その人が置かれている立場や環境」という意味が出てくるが、さらに人間関係というものも含まれるのだろう。

 生きていく上で人間関係というのは一番大切なことだと思うが、一方で一番神経を使うことでもあるだろう。良い人間関係もあれば悪い人間関係もあり、自分でコントロールできることもあればできないこともある。

 人生とは、そういった一つ一つのことに喜怒哀楽を感じながら、手探りで前に進んでいくようなものだ。楽しいことも辛いこともあるが、一つ一つをしっかりと受け止めながら前に進んでいる限りはきっと良い未来が待っているはず。

 そう思うことで、さらに良い立場や環境や人間関係が気づかれていくのだから、人は常に悩みながらも前に進んでいかなければならないのだろう。活路はそこにしか見い出せないような気がする。