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”あ〜分かる分かる”と膝を打ちたくなる一冊「我が家のヒミツ」(奥田英朗)

 「平凡に暮らすというのが一番大変なんだ」というのが父の口癖だった。子どもの頃にはこの言葉を聞いてもピンとこなかったし、なんだかつまらない話だなと思ったこともあった。いや、そう思う方がほとんどだった。

 戦中戦後に少年期を過ごした父にとっては心からの言葉だっただろうし、普段口数の少ない父が時々私たち子どもにこの話をしていたというのも、大切なことを伝えたかったからだと思う。

 時は過ぎて自分が家庭を持ち、四苦八苦しながら子どもを育ててみると、今さらながら「平凡なのが一番大変だ」ということを実感できるし、数十年前の父の気持ちも理解できる。

 父は80才を過ぎても健在なので、帰省するたびに「親子で元気に平凡に暮らしている」と伝えるようにしている。それが父にとっては一番安心できる言葉だろうし、昔自分が話したことが息子の中で生きていると思ってもらえると嬉しいなとも思う。

 何を持って「平凡だ」というかは定義が難しいが、どの家庭にもある個別のドラマが実は他の家庭でもあり得るようなことであれば、多少波風が立ったとしても「平凡だ」という言葉で括れるのかもしれない。"事実は小説よりも奇なり"という言葉があるが、それがどの家庭でも起こり得ることなら、それもまた平凡なうちにはいるのだろうと思う。

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 奥田英朗さんの書かれた「我が家のヒミツ」は、さまざまな家族が登場する短編小説集だ。それぞれの家庭が抱える事件や苦労などが描かれているが、それぞれの物語の根底には温かいものが流れている作品ばかりだ。

内容(「BOOK」データベースより)
どうやら自分たち夫婦には子どもが出来そうにない(『虫歯とピアニスト』)。同期との昇進レースに敗れ、53歳にして気分は隠居である(『正雄の秋』)。16歳になったのを機に、初めて実の父親に会いにいく(『アンナの十二月』)。母が急逝。憔悴した父のため実家暮らしを再開するが(『手紙に乗せて』)。産休中なのに、隣の謎めいた夫婦が気になって仕方がない(『妊婦と隣人』)。妻が今度は市議会議員選挙に立候補すると言い出して(『妻と選挙』)。どこにでもいる普通の家族の、ささやかで愛おしい物語6編。

 私は50才を過ぎた中高年男性なので、物語に登場する父親を自分と重ねて読み進めてみたが、「そうそう、分かる!」と思う物語もあれば「こうゆう同年代もいるよな」と思う物語もあった。

 どの物語にも共通しているのは、どこの家庭でもありそうな、もしかしたらなさそうな、そんな微妙な家庭内の出来事が綴られている点だ。現実の我が家には起きないような事件でも、もしかしたらこうなるかもしれないと思ってしまうのは、やはり文章の巧みさがもたらすものなのだろう。

 どの物語を読んでも最後には心の中に暖かいものが流れるというのは、救われた気持ちになって読んでいても楽しい。心温まる物語というのは、読むものの心を暖かく包んで優しい気持ちにしてくれるので、家庭円満のためにも必要な物語ではないかとさえ思ってしまう。

 心穏やかに過ごしたい方にはおススメの一冊だが、女性や若い方が読んだらどのような感想を持つのかも興味があるところだ。今度、高校生のむすこにも読ませてみよう。

 この物語の最終話には小説家の男性が主人公として登場するが、三部作の前作、前々作にも登場する人物なので、本作が気に入ったらそちらも読んでみることをオススメしたい。

我が家のヒミツ

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我が家の問題 (集英社文庫)

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家日和 (集英社文庫)

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