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「うれしい」という気持ちが風になって飛んできた

今週のお題特別編「嬉しかった言葉」
〈春のブログキャンペーン ファイナル〉

 口から放たれた言葉は音声として耳に伝わってくるが、音声だけが言葉ではない。以前知り合った方からの感謝の気持ちは、その想いが振動とともに風になって飛んできた。

■「伝えたい」気持ちが全身からあふれるスピーチ

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 仕事で参加した講演会でのこと。様々な方が「働く」ということをテーマとして講演を行われていたが、その中の一人が”ろう者”(手話を母語とする方)だった。

 まだ20代前半の彼女は生まれつき耳が聞こえず、発話もそれほど上手ではない。手話通訳者を通じて彼女のメッセージが会場に流されるが、200名を超える大勢の前で彼女は堂々と手話を使い、小さな体を大きく使って自分の思いを伝えていた。

 ろう者として企業に勤める彼女は事務の仕事に就いており、専門的な仕事をこなす以外にも会議などに進んで参加している。そんな彼女でも、「聞こえない」ということだけで「反応が悪い」とか「ピンと来ない」という誤解を受けることが多いという内容の講演だった。

 「聴こえないというだけで、聞こえない人を馬鹿だと思わないでください」と静かに手話で伝える彼女の身体からは、「自分の想いを伝えたい」という気持ちがあふれていて、表情から、手の動きから、体すべての動きから「伝えたい」という感情が会場内に広がっていった。

■「会えてうれしい」という気持ちが風になって飛んできた

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 講演会終了後に行われたパーティーで彼女と話をする機会があったが、私の下手な手話にも気長に付き合ってくれて、講演会の内容や現在の仕事の内容などをいろいろと教えてもらった。

 彼女の勤める会社には他にも聞こえないメンバーが居るとのことで、いつかまた会えると良いねと互いに手話であいさつを交わしてその日のイベントは終了した。

 数か月後、いろいろな経緯があって彼女の勤める会社との交流会が行われることになり、数か月ぶりに彼女と再会する機会があった。私が勤める会社にも数名のろう者いるため情報交流という目的での会合だったが、打ち合わせの部屋に入った途端に彼女の目が大きく見開かれ、嬉しそうに大きく何回もお辞儀をしてくれた。

 打ち合わせ終了後に懇親会の席が設けられたが、彼女が「再会できてうれしい」という意味の手話を使いながら、一生懸命に声を出してそのことを伝えようとしてくれた。喉を通って口から出てくる言葉は少しかすれて切れ切れだったが、言葉は音声ではなく風になって私の元まで確実に飛んできた。

 「伝えたい」という想いは確実に伝わってくるんだなと感じるとともに、相手に何かを伝えたいという「想い」は空気の振動となり、風となって相手まで届くんだということを教えてもらった。

■相手の「伝えたいこと」を「知りたい」と思う気持ち

 手話を習い始めて2年ちょっとになるが、年間40回近く講習会に通っているとそれなりに手話が使えるようになってくる。しかし、使うことは上達しても相手の手話を読み取ることはとても難しくて、いまだにろう者の使う手話の7割ぐらいしか読み取ることができない。

 それでも相手の目を見て、手話だけではなく体全体の動きを見て、一生懸命に読み取ろうとしていると、ふっと相手の伝えたいことが分かる瞬間がある。知りたいと思う強い気持ちが、手話以外の何かを捕まえるのだろうと思う。手話は「視覚言語」と呼ばれるだけあって、表情や体全体の動きで言語を表現するということにも関係があるのかもしれない。

 これは音声言語を使っている人との間でも同じことで、話をしてくる相手の言葉を聞き流していると、音声は耳に届いていても内容を理解することはできない。相手の伝えたいことを知りたいと思う気持ちがどれだけあるのか。それによって「会話」は成り立つし「想いは伝わる」ということになるんだろう。

 逆にいえば、伝えたいことがあるのであれば、音声でも手話でも筆記でも何でもよいので「心を込めて相手に語りかける」ということが大切なのではないだろうか。人生を50年以上生きてきて、そんな簡単なことに今さらながら気づいたことに恥ずかしさを覚えるが、気づかずに過ごすよりも数十倍良かったと思う。

 これからは、「会えて嬉しい」という言葉を風に乗せて送ってくれた人もいることを、きちんと念頭に入れて過ごしてみたいと思う。