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「水鏡推理(松岡圭祐)」いろいろな要素がふんだんに盛り込まれたミステリー

お題「秋の夜長に読みたい本」

 本好きの方であれば、「この作家さんの新作なら必ず読む」というものがいくつかあるだろう。私もそういった"ごひいき作家"という方が何人かいるので、新しい単行本にはなかなか手が出ないものの、文庫化されたり文庫書き下ろしが発刊されたりするといそいそと買い求めてしまう。

ねつ造案件にビシビシと切り込む痛快さ 

水鏡推理 (講談社文庫)

 つい先日発売されたのが、松岡啓介さんの「水鏡推理 (講談社文庫)」という書き下ろし文庫本。私の好きな作家さんが書かれた作品だけに、発売されて早々に買い求めた。新たな主人公が登場し、開発関連のねつ造案件にビシビシと切り込んでいく姿が痛快だ。

 主人公の水鏡瑞希(みずかがみ みずき)は、文部科学省の新人女性一般職だ。すらっとした美人公務員の彼女は、東日本大震災のために作られた仮設住宅地で人々の生活の支えとなっていた。

 ある日、原発反対派の男性が行っていた不正を暴いたことで、エリート総合職で作られたタスクフォースに異動することになる。「研究における不正行為・研究費の不正使用に関するタスクフォース」と名付けられたチームは、様々な研究における補助金・助成金に関する承認行為を行っている。

 地震予測に関する研究や自動運転に関する研究など、様々な研究が審査のために持ち込まれる。それまでは当たらず障らずの対応を行っていたチームも、事務処理を行うはずの一般職である瑞希が次々と不正を暴いていく様子を見て、徐々に官僚としてのプライドや打算を超えて案件に関わっていくことになる。

 そんなとき、国民一人一人の居場所を確実に把握するシステム開発の案件が入ってくる。一見して堅実な研究を行っているように見えたその案件も、調べていくうちに徐々にねつ造の疑惑が高まってくる。しかし、その案件の後ろには瑞希が思いもしなかった利権と権力の悪意が存在した。事件の核心に近づきつつある瑞希たちの前に、悪意に満ちた妨害行為が立ちふさがってくる。

  松岡啓介さんといえば「千里眼シリーズ」や「万能鑑定士シリーズ」など、相手の心理を的確に掴んで事件を解決するアクション・ミステリー物が有名だろう。また、最近では「探偵の探偵」という探偵業のダークな部分を扱った書き下ろしシリーズも精力的に書かれている。

 今回ご紹介した「水鏡推理」も探偵物の延長線にある物語だが、最近なにかと問題になっている研究開発に関するねつ造をテーマとして取り上げているのが面白い。

 主人公が美少女で正義感が強く、それでいて誰にも真似のできない推理力を有しているというのは松岡啓介作品の共通点だとも言える。こういった主人公設定というのは得てしてマンネリ化に陥りがちだと思うが、それを感じさせないのは主人公の人物設定が念入りに行われているからだろう。

 ミステリー要素あり、時事問題あり、社会はテーマあり、そしてちょっぴりラブコメ要素ありと、様々な要素を網羅したエンターテインメントな一冊だと思う。

 もちろん、今までのシリーズ同様に読後の爽快感があるスピード感あふれる一冊だ。

水鏡推理 (講談社文庫)

水鏡推理 (講談社文庫)

 

 正直者が損をするような世の中ではいけない

 様々なテーマの物語を世の中に送り出している松岡圭祐さんだが、今回の書き下ろしには「正しいことを求める」という姿勢が強く感じられた。東日本大震災後の仮設住宅問題もしかり、研究開発に関するねつ造問題もしかりで、物語の随所に作者の問題提起を感じる。また、公的機関や官僚に対する批判も痛切に感じられる。

 今回の物語を読んでいて痛快さを感じるのも、私自身が日頃から疑問に感じている部分にメスが入れられているからだろう。そういう意味では、読者の多くの方が同じような感想を持たれるのではないだろうか。

 作中で総合職採用のエリート官僚が、一般職の職員を虐げたり見下したりする場面が随所に見られるが、こういったことも現代のいじめなどに対する警鐘を鳴らしているように思える。さらに、まじめに一生懸命に研究に取り組んでいる人が会社から疎んじられ、会社や個人の利益を優先する者が重用されるという部分も痛烈に指摘されている。

 まじめに取り組む人が損をするような世の中というのは間違っているし、お金に執着することが新たな不正や不幸を読んでしまうということに気づかなければならないだろうと思う。