私が通っていた小学校には、色とりどりのアジサイが植えられていた。校舎は校庭よりも一段高い場所に建っていたので、段々畑のような花壇が作ってあったのだが、そこにたくさんのアジサイが植えられていた。梅雨時になると色々な花が咲いて綺麗だったが、咲き終わると花びらが一気に茶色くなって子ども心に寂しいなと感じていた。
(アジサイは接ぎ木することで増えるんだよ)と教えてくれたのは、今は亡き花好きの母だった。文具店を営んでいた母は何かと厳しい人だったが、花の話をしたり手入れをしたりしているときには、表情も声も数段優しくなっていた。アジサイの花を見ると、梅雨時の雨模様の空と母の笑顔を懐かしく思い出す。
松下龍之介さんが書かれた「一次元の挿し木」にはアジサイの接ぎ木の話が出てくるのだが、ミステリー作品ながら「人とは何か」ということを考えさせられるとても素敵な物語だった。
ヒマラヤ山中で発掘された二百年前の人骨。大学院で遺伝学を学ぶ悠がDNA鑑定にかけると、四年前に失踪した妹のものと一致した。不可解な鑑定結果から担当教授の石見崎に相談しようとするも、石見崎は何者かに殺害される。古人骨を発掘した調査員も襲われ、研究室からは古人骨が盗まれた。悠は妹の生死と、古人骨のDNAの真相を突き止めるべく動き出し、予測もつかない大きな企みに巻き込まれていく--。
(ブックスデータベースより)
ヒマラヤに実在する不思議な湖から持ち出された古代人の骨が、時空を越えて現代に不可思議な謎を持ちかけてくる。不思議な湖にある大昔のおびただしい人骨や、発掘調査を行ったメンバーの周辺に現れる謎の人物、大雨の日に忽然と姿を消した妹と古代人の骨との関係など、物語が進むにつれて色々な話が絡み合って大きな流れになってくる。
飽きることなく一気にラストまで読み切ってしまったが、科学技術の進化は残酷な運命を作ってしまうことがあることや、人として生まれて生きることの意味を改めて考えさせられた物語だった。
