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ほんのりとした幸福感を得られる「あなたに謎と幸福を ハートフル・ミステリー傑作選」

もう何年も読書記録をつけている。以前ご紹介したブクログというサービスだが、読んだ本の記録を簡単に行えて便利だ。また、読み終わった本がWeb上の本棚に並ぶので、どんな本を読んでいたのかも一目で分かって楽しい。

何年も前に読んだ本を見てみると、その時々の心の持ちようと言うか、どんなモチベーションや気持ちで日々動いていたのかがほんのりと分かって面白い。やたら刑事物が多い時には結構気合いを入れて動き回っている時期だったり、医療関係の小説が多いときには身内に体調が悪い者が居た時期だったりという具合だ。

どうも私は、感情の振れた方向に近い小説を読む傾向があるようで、親が高齢で亡くなった時期にはミステリーやホラー物を読んでみたり、良いことがあるとハッピーエンドな物語を好んで読んだりしている。そういう意味では行動が単純で分かりやすいのかもしれないし、読書以外でも行動や表情にその時々の感情がしっかりと出ているのかもしれないなと思う。

あなたに謎と幸福を ハートフル・ミステリー傑作選 (PHP文芸文庫)

最近読んでぐぐっと惹き付けられたのが、「あなたに謎と幸福を ハートフル・ミステリー傑作選 (PHP文芸文庫)」という一冊。いろいろな作家さんが書かれた短編を一冊にした傑作集で、共通しているのはミステリーながら幸福感の漂うという点だ。

収録されているのは近藤史恵さんの「割り切れないチョコレート」、加納朋子さんの「鏡の家のアリス」、矢崎存美さんの「次の日」、大崎梢さんの「君の歌」、そして宮部みゆきさんの「ドルシネアにようこそ」の5編だ。どの作家さんも素敵な物語を書かれるストーリーセラーで、どの作品も心暖まるミステリーだった。

そのなかでも、個人的には宮部みゆきさんの「ドルシネアにようこそ」が胸に響いた。以前、だいぶ昔に「返事はいらない (新潮文庫)」に収録されている同作品を読んだのだが、改めてそのせつなくて暖かい物語に心がほわっと暖かくなった。

この物語が書かれたのはバブル景気の末期。駅の掲示板に伝言を書いたり、派手な衣装でディスコ通いをする女性が闊歩していた頃の物語だ。そんな浮かれた時代にあって、実直に真面目に生きている人物が巻き込まれるほんのささやかな事件。その結末に胸がじわっと暖かくなるのだ。

良い作品はいつ読んでも、何回読んでも良い。そんなことを再認識させてくれた傑作集でもあった。

あなたに謎と幸福を ハートフル・ミステリー傑作選 (PHP文芸文庫)

あなたに謎と幸福を ハートフル・ミステリー傑作選 (PHP文芸文庫)

  • 作者: 宮部みゆき,近藤史恵,加納朋子,大崎梢,矢崎存美,細谷正充,他
  • 出版社/メーカー: PHP研究所
  • 発売日: 2019/07/10
  • メディア: 文庫
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