「事実は小説よりも奇なり」という言葉は英国の詩人バイロンの言葉だそうだが、いやいやそうは言っても実際にはそれほど奇妙な話というものには出会わない。もしかしたら小説よりも奇なる事実があるかもしれないが、それはテレビのワイドショーで時たま報道される程度の頻度なのだろうと思う。だからこそ小説が面白いのであって、良くある日常を題材にしたミステリーは、自分にも起こりうるのではないかと感じるのでついつい没頭しがちだ。これから秋の夜長がやって来るので、そんな没頭できる物語に出会うと心から嬉しく感じてしまう。
結城真一郎さんが書かれた「#真相をお話しします」は、平凡な日常の中に潜む狂気や謎を描いた短編ミステリー集だ。どの話も一見すると日常的に良くある出来事ながら、どんでん返しに次ぐどんでん返しを楽しませてくれる。
家庭教師の説明で訪れた一軒家で、片桐は家庭教師の派遣を希望しているという親子に会う。母親と小学生の息子は淡々と説明を聞いていたが、母親が突然逆上したり息子があえて間違った答えを書き続けたりとどこか不自然だ。模擬体験を進めるうちに、さらにその不自然さが際立ってきて事態は大きく展開する。【惨者面談】
そのほか、マッチングアプリで知り合った女性を次々とナンパする妻子持ち中年男性の話。体外受精でようやく授かった15才の娘のことで悩む夫婦など、日常的に良くありえる話が読み進めるうちに不穏な雰囲気となり、あっと驚く結末を迎える。
自分の回りにありそうな話が題材だけに、読んでいてブルッと震えるような感覚を覚える一冊だ。秋の夜長にはうってつけの物語ではないだろうか。