気分はポレポレ《文房具好きブログ》

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思わず胸が熱くなる一冊、「ひとつむぎの手」(知念 実希人)

最近、めっきりと涙もろくなった。先日も児童養護施設出身者の講演を拝聴する機会があったが、ご本人が警察に保護される場面の話では思わず涙を流してしまった。それ以外にも、頑張っている若い人の話を聞くだけで涙をこぼしそうになったり、ちょっとしたことでも涙腺が緩んだりと、とにかく涙もろくなった。若い頃から涙もろいほうだったが、年齢を重ねるとともにさらにその傾向が強くなったので、やはり年齢を重ねるにつれて涙腺が弱くなったのだろうと思う。

歳をとると涙もろくなる理由には諸説あり、ひとつには前頭葉の働きが悪くなって感情のコントロールが出来にくくなったという説だ。お酒を飲んでブレーキが効かなくなるのと同じ理屈だが、この説のとおりだとすれば加齢による脳の機能低下ということになるのだろう。一方で、いろいろな経験を重ねてきたことによって脳が「共感」を強めて深めるために、若い頃よりも「深く共感」し「深く感動する」ために涙もろくなるという説もある。

どちらも正しくてどちらか一方ということではないのだろうが、脳の機能が衰えたと考えるよりも「脳が哲学的な方向に育ってきた」と考える方が素敵ではないだろうか。  

ひとつむぎの手

知念実希人さんが書かれた「ひとつむぎの手」は、本屋大賞2019にもエントリーされている医療現場を題材とした物語だ。著者自身が医師ということもあり、医療現場の模様が非常に詳しく書かれていて興味深い。

大学病院で一流の心臓外科医を目指している平良祐介は、心臓外科の過酷な勤務に耐えながら日々の医療活動を行なっていた。勤務自体は体力も気力も激しく削り取られる過激さだが、患者に対する真摯な姿勢と的確な判断や手腕で人望も厚い。また、なかなか自宅に帰れない日々が続きながらも、夫の生活に理解を占める優しい妻と可愛い娘に囲まれて幸せな家庭生活を気づいていた。

そんな折、医局の最高権力者である赤石教授に、新たに三人の研修医の指導を任せられるとともに、そのうち二人以上を心臓外科に入局させるよう依頼される。人手不足の心臓外科を立ち直らせるための策だが、成功すれば祐介自身を心臓外科医への登竜門と言われる大きな病院への出向が決まる。失敗すれば地方の小さな診療所に飛ばされる可能性もあるが、教授自らの依頼に祐介は3人の研修医を引き受けることを約束する。

研修医への対応に四苦八苦している最中に、さらに赤石教授が論文データの捏造と製薬会社との癒着を行なっているという告発文書が出回る。赤石教授から犯人探しを頼まれた祐介は、研修医達の指導をしながら告発文書の真相を探っていくが、その最中にさらに重大な事態が発生し、祐介は窮地に陥っていく。

主人公の祐介は、責任感が旺盛ながら正直すぎるほど正直で、医局内でもうまく立ち回ることができない青年医師だ。告発文書の作成者を暴くという過程からは、物語は一気に「医療ミステリー」の様相を呈してくるが、それでも内容的には「医療現場をめぐる若手医師の奮闘と医療現場の過酷な現実」を伝えるヒューマン物語だなと感じた。

救急で運ばれてきた男性の容態が急変し祐介が指示を出すシーンなどは、展開が非常にスピーディーではらはらしながら読み入ってしまう。また、幼い女の子が癌と戦いながら徐々に心を開いていく場面では、不覚にも涙腺が緩んで涙を浮かべてしまうぐらいだった。 

医療ミステリーと言いながらも、必死に働くことや必死に生きることの大切さを切々と教えてくれる一冊。思わず胸が暑くなる一冊だ。オススメです。  

ひとつむぎの手

ひとつむぎの手