東北の太平洋側には何かとご縁がある。仕事で仙台に行ったり青森に行ったり福島に行ったりするだけではなく、思いがけないご縁で岩手県の大船渡や花巻に行ったりと、旅行も含めてかなりの回数出かけている。東北の日本海側には一度も行ったことがないので、やはり太平洋側にはご縁があるのだろう。
移動の際には東北新幹線を利用するのだが、東海道新幹線と比べて景色が開けているというイメージがある。実際にはトンネルも多くて見晴らしが悪い場所も多いのだが、ひたすら真っ直ぐひたむきに走るというイメージが強い。それは車窓から見える景色や、到着する駅の雰囲気が影響しているのかもしれない。
東海道新幹線のように富士山が見えたり大きなビル群を遠くに望んだりするようなことがない分、目的地に向かってひたすら移動をしているという感覚が強いのかもしれない。こういう、移動する感覚というのはとても楽しい。
彩瀬まるさんが書かれた「桜の下で待っている」は、東北新幹線で東北を目指して移動する人々が主人公となった短編集だ。物語で設定されている時代は、東日本大震災発生から数年後。まだ大震災の記憶も傷跡も大きく残っている頃の話だ。
内容(「BOOK」データベースより)
面倒だけれど愛おしい「ふるさと」をめぐる感動作―郡山、仙台、花巻…桜前線が日本列島を北上する4月、新幹線で北へ向かう男女5人それぞれの行く先で待つものは―。実家との確執、地元への愛着、生をつなぐこと、喪うこと…複雑にからまり揺れる想いと、ふるさとでの出会いをあざやかな筆致で描く。注目の気鋭作家が丁寧に紡いだ、心のひだの奥底まで沁みこんでくる「はじまり」の物語。
一人暮らしの祖母が住んでいる宇都宮に行き、亡くなった祖母の連れ合いのことを考える若者。婚約者の実家がある福島に行き、震災の爪痕が残る場所を訪れた女性。親戚の結婚式に出席するために、両親と一緒に花巻を訪れて不思議な体験をする少女などなど。新幹線で東北に向かったそれぞれの主人公達が、それぞれの行き先で大切なことを知る機会に恵まれる。
それぞれの物語には何かしらの「死」というものが絡んで来るのだが、それが悲しさではなく安心や生きる活力に繋がっていて、読後にはふわりとした暖かさと、頑張ろうと思える前向きな気持ちが胸に残った。桜の季節だからこそ、読んでみたい一冊だ。