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悲しさや苦しさを癒す場所は必ずある/「絶唱」(湊かなえ)

今週のお題「最近おもしろかった本」

 生きていると楽しこともあれば悲しいこともある。嬉しいこともあれば辛いこともある。そういった悲喜こもごもを経ながら人は生きていくのだが、時には忘れることができないような辛いできごとに遭遇することもある。

 そんな時に、どうしようもない悲しみや苦しみを癒す場所が欲しい。場所ではなくても人でも良い。心の中の苦しみや悲しみを乗り越えるのは自分自身だが、乗り越えるためのきっかけとなる場所があれば、生きていくうえで心強いのではないだろうか。

南の島を舞台にした心温まる物語

絶唱

 湊かなえさんの書かれた「絶唱」は、心に大きな傷を負った女性たちが南の島トンガに行くことで心を癒されるという連作短編集だ。

 湊かなえさんの作品に登場する主人公は、心に傷を負った女性が多いように感じる。そして、単に主人公が体験することを描いていくのではなく、心の中にある暗闇や葛藤を見事な描写で表現していくという点がすごいと思う。

 そういう意味で湊かなえさんの書かれる小説は一種独特な世界観があり、決してハッピーエンドだけでは終わらないというイメージがあった。しかし、今回ご紹介する「絶唱」は今までの作品とは少し趣が違い、読み終えた時に心がフワッと温かくなるような感覚を覚えた。

 それぞれの短編の主人公たちは、それぞれが阪神淡路大震災の被害に遭っている。その時の悲しい思い出や心に負った傷を持ちながら、ある女性は一人で、ある女性は二人でと、南の島のトンガにやってくる。そして、日本人女性が経営するゲストハウスに宿泊した彼女たちは、それぞれの想いを胸に抱きながら現地の人やゲストハウスのオーナーと接していく中で希望を見出していく。

 短編に登場するそれぞれの主人公にはそれぞれの忘れられない過去があり、その過去がお互いの過去と現在とに微妙にかかわりあいながら進んでいくというのが面白い。人と人とは知らず知らずのうちに縁があり、その縁が絡まりあいながら人生を作り上げていくんだということがわかる。

 阪神淡路大震災は悲しい天災だったが、それを忘れないためにもこういった物語が世の中に出ていくことは意味のあることだと思う。第28回山本周五郎賞の候補としてもエントリーされたこの作品は、初刊発行日が阪神淡路大震災の発生日と同じ日だ。そこにも湊かなえさんの想いが込められているような気がする。

絶唱

絶唱

 

連作短編集の読み方 

 小説には短編集、長編、連作短編、シリーズ物といくつかの種類がある。種類と言って良いのか分類と言って良いのか良くわからないが、書店で手に取った時にまずはそこに目が行ってしまう。

 じっくりと本を読みたい気分の時用に長編を探し、通勤時に読む時用には短編集を、好きな作家さんのシリーズ物が出ていればとりあえずというように、書店に行くと常に何冊か買い込んでしまう。それもあって、私は同時に何冊かの本を平行して読み進めていくことが多々ある。それも楽しみの一つだ。

 その中でも、連作短編集を読むのは無条件に好きだ。一つ一つの短編で感動したりため息をついたりした後に、他の短編で以前の物語に関連する場面が出てくると何となく嬉しくなってしまう。ああ、なるほどそういうことだったんだなと思うこともあるし、第三者的に以前の主人公を眺めていることもある。

 そんな連作短編集は、やはり長編と同じく一気にじっくりと読む方が良い。しかし、長編と違うのは短編の合間合間にあえて一息入れることだろうか。コーヒーを飲んだり音楽を聴いたりしてから、おもむろに次の短編を読み始める。

 そうすることで、より一層それぞれの短編が関わる部分が鮮明に感じられるような気がする。自己満足的な方法かもしれないが、なかなか効果的な方法でもあると密かに思っている方法だ。