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「活版印刷三日月堂 庭のアルバム」(ほしおさなえ)-活版印刷を体験したくなるシリーズ第三弾

人にはそれぞれ、懐かしく感じる風景や出来事などがあると思う。それが景色であったり音であったり、あるいは香りであったりと様々だが、ふとした時に何かがスイッチになって懐かしく思い出すものだ。

大人になってからそうやって“ふと思い出す懐かしい景色”のことを「原風景」と呼ぶらしい。原風景は屋外の景色だけではなく、屋内の景色も含むのだろう。藁葺き屋根の古民家であったり、古い家屋の土間であったり、町工場の機械が動く音であったりと、人の数だけそれぞれの心に刻まれた景色がある。

また、原風景に限らず思い出に残る景色と言うのはたくさんあって、そういった懐かしい景色を思い出すたびに、歳をとるというのも案外悪くないなと思ったりする。

「活版印刷三日月堂 庭のアルバム 」表紙

私の思い出の景色のひとつに、小さな印刷工場の室内がある。小学生の頃に仲の良かった友だちの自宅が、小さな印刷工場を営んでいた。学校帰りに遊びに行っては、ガチャンガチャンと大きな音を出しながら力強く動く印刷機械の迫力に見入ったものだ。

当時はまだ活版印刷が使われていた時代だが、そんな景色を懐かしく思い出させてくれるシリーズの最新刊が出た。ほしおさなえさんの書かれた「活版印刷三日月堂 庭のアルバム」だ。埼玉県川越市にある小さな活版印刷所を舞台に、活版印刷をめぐる素敵な物語が連作短編集という形で綴られた一冊だ。 

内容(「BOOK」データベースより)
小さな活版印刷所「三日月堂」には、今日も悩みを抱えたお客がやってくる。店主の弓子が活字を拾い刷り上げるのは、誰かの忘れていた記憶や、言えなかった想い。しかし三日月堂を続けていく中で、弓子自身も考えるところがあり…。転機を迎える、大好評シリーズ第3弾!ブクログ1位、読書メーター1位、第5回静岡書店大賞、第9回天竜文学賞、4冠!  

物語の始まりは、小さなタウン情報紙の取材だった。川越市にある昔懐かしい映画館が、昔懐かしいウエスタン特集を行おうと企画。それを取材しに行ったところ、チケットを街の小さな活版印刷所にお願いするという話を聞きつける。

そこで作られた活版印刷製のチケットが縁となり、次々と活版印刷所の三日月堂に人が集まる。そして、それぞれに素敵な出会いや気付きを得ながら、三日月堂の店主である弓子の物語へと繋がっていく。

人と人とは見えない縁で結ばれているんだなと思わされる内容であり、何気なく使っている言葉は一つ一つが意思を持っているんだなということを考えさせてくれる一冊だった。 

今回発刊された書籍でシリーズ3作目だが、累計で14万部を突破しているというのだからブクログや読書メーターで1位をとっているというのも納得だ。活版印刷の魅力が詰まっているだけではなく、言葉や文字自体の持つ魅力を余すことなく伝えてくれる。このシリーズを読むと、無性に活版印刷で刷られた印刷物をみたくなってしまうのだ。

シリーズ第4弾が今から楽しみだ。

([ほ]4-3)活版印刷三日月堂 庭のアルバム (ポプラ文庫)

([ほ]4-3)活版印刷三日月堂 庭のアルバム (ポプラ文庫)