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「彼女の時効」(新津きよみ)

死んだ人が見えるとか写真に写るというような話は、夏になってくるとテレビを中心に増えてくる。怪談や超常現象というのは夏の風物詩のようなものだが、子どもの頃にはそれが怖くて怖くて、だったら見なければ良いのに好奇心で見てしまい、それが元で夜怖くて寝られないという訳の分からない状態に陥っていた。

今考えてみると、子どもだけに「死」というものを漠然と捉えていて、「死」イコール「怖いこと」だと考えていたからだろう。また、身内親戚を含めて人の死にそれほど遭遇しているわけでは無いので、 「死んだ人」イコール「怖い存在」だという気持ちを持って当然だろう。

それが年齢を重ねるに連れていろいろな「死」に出会わざるを得なくなり、徐々に死ぬことに関しての怖さが薄れてくる。もちろん死ぬことはいまだに怖いし幽霊も怖いのだが、例えば亡くなった両親が姿を現すとすれば、怖いと思うよりもまずは懐かしいと思うのではないだろうか。私は今でも亡くなった父や母が夢に出てくることがあるが、目が覚めた時には夢に出てきてくれたことを感謝してしまう。それだけ自分が亡くなった両親の年齢に近づいているということだろうし、人として覚悟のようなものが生まれてきたということかもしれない。 

彼女の時効 (光文社文庫)

新津きよみさんが書かれた「 彼女の時効 (光文社文庫)」という一冊は、交通事故で亡くなった夫の命日に交通事故で亡くなった女性の幽霊と出会うという場面から始まる物語だ。

夫をひき逃げで失った浅井久子。夫の命日に事故現場を訪れた彼女の前に現れたのは、交通事故がきっかけで殺された内海政子の幽霊だった。奇妙な幽霊との同居が始まり、次第にわかってきた政子の過去。久子は政子が気になっている娘探しを始めるが、2人の奇妙な接点から事件の真相が明らかに。

(ブックスデータベースから)

交通事故で夫を亡くした久子は、子どもの頃から「亡くなった人」が見えてしまうという特別な力を持っていた。久子は亡き夫の命日に夫が交通事故に遭った場所に出向いたところ、ふらふらと行ったり来たりしている女性を目にして声をかけるのだが、それが交通事故で殺された政子との出会いだった。政子は亡くなった当時の記憶を失っていたが、久子の家で生活するうちに徐々に記憶を取り戻し、あとに遺した娘を探したり自分を殺した犯人の手がかりを探したりするようになる。一方で久子も夫をひき逃げした犯人探しを行うなかで、政子の娘に関係する新聞記者から新たな情報を得るなど、時効が過ぎてしまった事件ながら手がかりを掴んでいく。

幽霊との同居という摩訶不思議な設定ながら、それを不自然だと感じさせないのは著者の文才があってこそだろう。また、2件の轢き逃げ事件の犯人を追いかけながらも、「時効撤廃」という社会的な流れを物語の中に織り込んでいるのは、社会派ミステリーの旗手ならではのストーリー展開だなと感じた。

ミステリーながら、読後に胸が暖かくなる素敵な物語だった。

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