今週のお題「読書の夏」
夏の風物詩といえばカキ氷に風鈴に海水浴など、暑い夏だからこそ楽しめるものがたくさんある。その中でも花火大会は子どもの頃から楽しみなイベントで、お腹に響くような大きな音と、夜空に輝く花火の光は一言では言い表せない美しさがある。
地元の花火大会と東京の花火大会
九州の地方都市で生まれ育ったが、地元で開催される花火大会はそれほど混雑するわけでもなく、友達と連れ立って自転車を漕いで見に行ったものだ。降るような星空を見ることができる自然豊かな町では、夜空に打ち上げられる花火はとても美しく、子ども心にも感動的だったことを思い出す。
大人になって就職のために上京したが、各地で行われる花火大会の想像以上の人混みに驚き、地方と都会とでは花火大会の雰囲気がこんなにも違うのかと驚いた。地元の花火大会では芝生広場に座ってのんびりと見ることができた打ち上げ花火も、東京では人混みのなかで汗をかきながら仰ぎ見るもの変わった。
どちらが良いかということではないが、個人的には夜空に打ち上げられる花火を静かにじっくりと見ることができる花火大会の方が好きだ。
花火職人を主人公とした物語
この季節に読むのがピッタリなのは、美奈川護さんの書かれた「ギンカムロ」という一冊。花火職人を主人公とした物語だが、花火職人の一家だけではなく、花火に関連した町全体の悲しみや苦しみや喜びや幸せを描いた物語だ。
幼い頃に実家の花火工場で起きた爆発事故で両親を亡くし、父と同じ花火職人お祖父に育てられた昇一は、高校卒業後に生まれ育った町を飛びだし東京でアルバイトをしながら一人暮らしを続けていた。そのまま東京に住み続けるつもりだった昇一の元に、ある日届いた祖父からの電話。何かあったのかと驚きながら四年ぶりに帰郷した昇一の前に、祖父の元で花火職人として修業中の風間絢がいた。12年前に起きた様々な不幸な出来事。それぞれの悲しみを抱えながらも、それを乗り越えるために打ち上げられる花火。昇一の祖父が、町の人々が花火に託している想いが交錯しながら物語は進んで行く。
花火職人を題材とした物語はそれほど多くはないと思うが、職人としての苦悩や葛藤が見事に描かれているとともに、夜空に輝く打ち上げ花火がどのようにして作られているのかということも知ることができて興味深い。
「ギンカムロ」とは何のことなのか、何のためにあるのかなど、題名に込められた意味も深い。
夜空に打ち上げられた花火が明るく輝くのは、作られる期間の長さと反対にほんの数秒のことだ。その短い時間のなかで輝く花火は、素晴らしい輝きと音とで、見ている者の記憶のなかに永遠に刻み込まれるものもある。
そんなことを思い浮かべながら読み進めることのできるこの物語は、読後に心のなかに爽やかな風が吹き抜けるような素敵な物語だ。真夏のこの季節に読みにはぴったりな一冊だと思う。皆さんもぜひ。