3年前に母が、2年前に父が相次いで亡くなり、九州にある実家が空き家になった。何十年も両親が二人で住んでいた2階建ての実家は、思っていた以上に様々な「物」であふれ返っていた。
戦争で物資が不足していた時代を過ごした両親は、簡単には物を捨てられなかったのだろう。服や雑貨などこれでもかというほど押入れや納戸にはいっており、実家の整理に手をつけ始めた時にはその量の多さに呆然となったものだ。
幸いにして、両親が懇意にしていた配送会社の方が遺品の整理や廃棄を手伝ってくださったので、東京から何回か帰省をして半年ほどでほとんどの荷物を整理して、何とか綺麗に片付けることができた。ほどなくしてコロナ禍に見舞われて帰省することが出来ない日が続いているが、片付けるということがこれほど大変で大切なことだということを、亡くなった両親から教えてもらったような気がしている。
沢野ひとしさんが書かれた「ジジイの片づけ」は、歳を取ったらどのように片付けをしていけば良いかということなどが書かれた一冊だが、単に片付けることだけではなく片付けることは生活を見直すことだということも含めて書かれた一冊だ。
沢野ひとしさんといえば、作家の椎名誠さんの友人で「本の雑誌」の立ち上げに関わったり、山登りのエッセイなどを書いたりするなど、画家としてもエッセイストとしても活躍されている方だ。ほのぼのとしたイラストとのんびりとした文章が特徴の沢野さんは、片付けの本を書いてもその独特の雰囲気はそのままで読みやすく楽しい。
氏は朝早く起きたらササっと片付けることを習慣にしていて、歳をとればとるほど片付けることが大切だと書いている。しかし、単に片付けの方法を書いたハウツー本ではなく、氏が若い頃外国に滞在していた時のカメラマンの話や教師をされていた奥さまとの荷物に関する攻防、便利だと思って自宅に作ってしまった床下収納のことなど、片付けるということをキーボードにした様々な出来事がほんわかとした雰囲気で書かれている。そのどれもがなるほどなと頷く話であったり、そういうことってあるよなと思えるような話であったりとなかなか興味深い。
断捨離で有名なやましたひでこさんは、片付けは「モノへの執着を捨てることが最大のコンセプト」とおっしゃっているが、歳をとるにしたがってモノへの執着をどこまで捨てられるかは、その人の生き方にまで関わってくるのだろうなということを、沢野ひとしさんのこの一冊で教えてもらったような気がする。