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悲しいのに温かい「さざなみのよる」(木皿 泉)

年老いた母が無くなったのは、数年前の年明けすぐのことだった。体調を崩して数ヶ月入院していたが、最後は苦しむこともなく眠るように旅立った。昔で言うところの老衰だろうか。最後まで家族想いの人だった。

本人の意向で家族葬にしたのだが、これが大間違いだった。生前人付き合いが良くて明るい性格だった母は、老若男女を問わず友だちが多く、家族葬だとあらかじめ町会に話をしていたにもかかわらず、お通夜の席に次々と弔問の方々が足を運んでくださったのだ。実家近くに会場を借りていたのだが、葬儀屋さんに相談して急遽席を作り、私たち兄弟とその家族でお茶を出したり香典返しを渡したりと大騒ぎのお通夜になってしまった。昔から賑やかなことが好きだった母だけに、その様子を空の上から眺めていてカラカラと笑っていたかもしれない。

しかし、そのお陰で私たち子どもが知らなかった母の一面を皆さんからお聞きすることができて、それもまた母からの贈り物だったのかもしれない。

さざなみのよる

木皿泉さんが書かれた「さざなみのよる」は、主人公の女性が病気であの世に旅立つ場面から始まる。亡くなる本人の一人称で書かれているので。なかなか胸に迫るものがある。それなのに、悲しさよりも温かさを感じる素敵な一冊だった。

小国ナスミは癌に侵され、夫や姉に見守られながら43才という若さで旅立った。徐々に命の灯火が弱くなるなかで、ナスミは周囲に感謝しながら静かに旅たっていく。

ナスミが静かに旅立った瞬間から、その死は姉に、夫に、叔母にと、ナスミが生きていた証を次々と思い起こさせていく。その静かで暖かい波紋は、さらに友人やナスミに関わったあらゆる人たちへと広がっていく。決して生活態度が良かった訳でもなく、性格が穏やかな訳ではなかったナスミ。しかし、彼女には目の前の相手を全力で愛し、大切にするという優しさと強さがあった。それが、ナスミ自身の死によってじわじわと皆の心の中に広がる。そして、物語はナスミの本質に迫りながら、時空を越えた壮大な結末へと進んでいく。

久しぶりに「じわっと感動する」という感覚を味わった。それは、もしかしたら数年前に身内を亡くしたということがあったからかもしれないが、それを差し引いても素敵で暖かい物語だと思う。

作者の木皿泉さんはご夫婦で共著されているユニットだが、素敵な言葉とストーリーを紡がれていることに、ただただ驚くばかりだ。本屋大賞にノミネートされた本は、やはり素晴らしい一冊だった。

 

さざなみのよる

さざなみのよる