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人を育てることの原点を知る「一流を育てる 秋山木工の『職人心得』」(秋山利輝)

 新潟で知り合った職人さんが、一冊の本を紹介されていた。私は職人ではないが、読んで非常に感じ入る部分が多い一冊だった。

独自の「人の育て方」が綴られた一冊  

一流を育てる 秋山木工の「職人心得」

 神奈川県横浜市に、独自の人材育成を行う木工会社がある。いや、人材育成という言い方は少し違うだろう。人材ではなく「人」そのものの「心」と「技術」を育てると言ったほうが正しい。

 会社の名前は「秋山木工」。100年以上使うことのできる家具を、職人がひとつひとつ作る木工会社だ。今回ご紹介する「一流を育てる 秋山木工の「職人心得」」は、社長の秋山利輝さんがご自身が考え、実践されている「職人の育て方」をまとめた一冊だ。

 秋山木工における職人の育て方は、すでにテレビで何回も放映されているのでご存知の方も多いだろう。本書では職人として育てるための技術的なことではなく、人として心を正しく育てるための取り組みや想いが綴られている。

職人集団の師弟制度

 秋山木工には学歴や年齢を問わず、木工職人になりたいという目標を持った人々が集まってくる。入社後は男も女も関係なく丸坊主になり、 5年間の研修期間中は恋愛禁止。それだけではなく、携帯電話やメールも禁止されて代わりに手紙を書くよう指導される。

 食事は入社1年目の研修生が作り、社長も職人も研修生も全員同時に食べる。テレビをつけることは禁止されており、仕事以外の私語も禁止。研修中は社長(親方)からも先輩からも容赦ない叱責が飛び、仕事は教えられるのではなく見て覚えるものだと言われる。

 こう書くと、単なる前時代的な厳しい師弟制度じゃないかと思われるかもしれない。確かに師弟制度を現代で踏襲しているのが秋山木工だが、そのひとつひとつにとても深い意味と愛情が込められていることがわかる。本書ではそういったことが、丁寧にわかりやすく書かれているので、読み進めていくうちに自然と理解が進むのではないかと思う。

育てる側の心構え

 秋山木工での修行内容がメインとして書かれているが、育てる側の心構えも随所に読み取ることができる。社長の秋山さんは、ご自身のことを「おせっかいでしつこい」と表現されているが、弟子に嫌われようと何と言われようと細かいことまで指導を行う。

 挨拶の仕方から食事の際の箸の上げ下ろしなどを、本人が身につくまで何回も指導し、時には声を大きくして怒ることも少なくないという。しかし、細かく指導することや本気で怒るということは、怒られる側以上にパワーと愛情が必要なことだ。

 また、秋山木工では修行が終わって何年間か職人として過ごすと、他の木工会社に有利な条件での就職を斡旋したり、起業するための支援を行ったりしている。それは「職人を秋山木工に縛り付けことは本人にとってマイナスだ」という考え方からだが、丹精を込めて育てた職人を手放すというのは、本当に本人のことを考えていないとできないことだろう。

 そういった「育てる側の心構え」であったり「覚悟」のようなものも、しっかりと知ることのできる一冊だった。

 「職人になる」というのは、なにもモノ作りの現場に限ったことではない。企業でも同様だろう。この本が30年前に発売されていたとすれば、私も読み込んで当時の仕事に対する気持ちもさらに高まっただろうと思う。

 そうは言っても時間が戻ってくれるわけではないので、高校三年生になったむすこに読ませることにしようと思う。

一流を育てる 秋山木工の「職人心得」

一流を育てる 秋山木工の「職人心得」