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江戸時代の大名の素顔が古文書から蘇る「殿様の通信簿」(磯田道史)

 私が子どもの頃は、通知表はまだ5段階評価だった。成績の良い子が「オール5」をとったりすると、クラス中が驚きの声に包まれたものだ。当時は先生が「○○くんはオール5だ」と発表したりすることもあったが、今では考えられないことだろう。

 5段階評価がいつしか3段階の丸印になり、そのうち「非常に良い」「良い」などの言葉に変わった。5段階評価の頃のインパクトは薄れたが、それでも通知表や成績表を渡される事は学生にとって一大イベントで、中身に一喜一憂したことを思い出す。

 社会人になったらなったで、資格試験や社内の評価制度などがある。通知表からは縁遠くなったものの、誰かに点数をつけられることは相変わらず続いている。もしかしたら、家族からも点数をつけられているかもしれないので、時にはケーキなどを買って帰った方が良いのかもしれない。

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 江戸時代の殿様に関しては、各地に様々な伝承や物語が残されている。ほとんどは、殿様がいかに勇敢であったか頭脳明晰であったか、あるいは慈悲深かったかということが語り継がれているだろう。しかし、磯田道史さんが書かれた「殿様の通信簿 (新潮文庫)」を読むと、そういった伝承とは違う人間臭さのある殿様像が浮かび上がってくる。

 「殿様の通信簿」は元禄時代に書かれた「土芥寇讎記」を読み解いてた古文書で、幕府が大名の行いや性格などを密かに調べた史料だ。例えば、水戸黄門のモデルとされている水戸光圀は日頃から城を抜け出して悪所通いをしていたとか、赤穂浪士で有名な浅野内匠頭は女好きのひきこもりであったという具合に、古文書に書かれていた殿様の行状が綴られている。

 どの話も今まで見聞していた事柄と大きく異なるものばかりだが、だからといってゴシック記事的な内容ではない。江戸時代という日本史の中でも一種独特な時代にあって、大名がどのような背景で生まれ育ったのか、なぜそういった行状をとったのかがしっかりと書かれているからだ。

 また、殿様の行動や言動によって周囲がどのように考え動いていたのかという事なども、歴史の流れを見ていくうえで非常に興味深い。歴史は一人の卓越した人物が動かしたわけではなく、様々な事柄が連動してひとつの流れが出来ていくのだという事なども知る事ができるからだ。

 磯田道史さんは、「武士の家計簿 ―「加賀藩御算用者」の幕末維新 (新潮新書)」や「無私の日本人 (文春文庫)」を書かれた方だ。古文書を読み解き、長い年月のなかに埋もれていた事実を歴史エッセイとして現代に蘇らせてくれる。

  古文書から紐解かれた殿様の通信簿は、当時の時代というものを身近に感じさせてくれるとともに、人の考えや行動というものは環境や教育で左右されるものなのだという事を教えてくれる。現代の日本を考えるうえでも参考になる一冊ではないだろうか。

殿様の通信簿 (新潮文庫)

殿様の通信簿 (新潮文庫)

 
武士の家計簿 ―「加賀藩御算用者」の幕末維新 (新潮新書)

武士の家計簿 ―「加賀藩御算用者」の幕末維新 (新潮新書)

 
無私の日本人 (文春文庫)

無私の日本人 (文春文庫)