店舗には一切並ばずに、ノベルティ用としてだけ作られている商品というのがある。ひとつひとつを売るというのではなく、ひとつのものを大量に作るという方法だ。企業が無料で配布するノベルティなので実用的で単価の安いものが多いが、その中でも環境に優しく使いやすいという紙製のボールペンを制作している現場に行ってきた。
紙を巻いて作った「ペーパーペン」
愛知県名古屋市にある合資会社愛知紙管が作っているのが、名入れのできるノベルティ用ボールペンの「ペーパーペン」という商品。もともとは紡績用の紙製ボビンを作っている会社だが、その技術を活用して環境に優しい紙製のボールペンを開発した。
http://www.paperpen.co.jp/case/case.html
ボールペンの軸を除いてすべての部材が紙でできているが、軽くて丈夫で触り心地もとても良い。企業用のノベルティとして製作されているのでお目にかかることが少ないが、実際に使ってみるとスイス製の軸がとても良い書き心地で、普通のボールペンよりも少し長めの本体も握っていてバランスが良い。
某企業のノベルティとして作られたものをいただき使っているが、紙製なのにしっかりとしているうえに、キャップをさした時にペン軸が飛び出さないようストッパーがあるなど、安全にも配慮されているのが素晴らしい。
製造現場は職人技の世界だった
先日、ご縁があって名古屋の愛知紙管さんを訪問し、ペーパーペンを製作している工場を見学してきた。年末の忙しい時期にもかかわらず、快く見学をさせてくださったのがありがたい。
ペーパーペンは紡績用ボビンの巻く技術と、両端を押し込んで丸くする技術の双方を活用し、さらに本体の中にもう一本細い紙管を入れることで強度を増している。外側と内側の紙管がぴったり入るというのは、実に職人技の精度だなと思う。
外軸に内軸を入れたものが機械によって運ばれ、この先で両端を丸くする処理が行われる。機械化されているとはいえ、機械もと特製品で随所に細かい工夫が見られる。
ここではペン軸を本体にカチッと差し込む作業が行われている。ここも機械化されているとはいえ、軸を入れる作業は手作業。目にも留まらぬ速さで軸を入れる様子は、まさに職人技だった。
また、この機械は自分たちで部材を集めて作ったものだとか。工作機械まで作ってしまうところが、まさにモノづくりの現場だなと思った。
こちらの機械ではキャップの部分を作成していた。キャップは単に筒になっているだけではなく、ペン本体が止まるように切れ込みも入れてある。カシャンカシャンという音が実に小気味良い。
愛知紙管は決して大きな会社ではないが、働いている方々が商品にも設備にも誇りを持っていて、仕事の手を休めてにこやかに作業の方法や機械について丁寧に話をしてくださった。誇りを持った職人集団が作る紙製のボールペンは、着実に売り上げを伸ばしているのだとか。
こういった商品が市場に出回ることが、職人さんの活躍の場を広げるんだなと感じた。
機械にも歴史がある
工場の隅にとても古くて重厚感のある工作機械が置いてあった。ポンと乗せられた切削油の入れ物も含めて良い雰囲気だ。
この機械はドイツ製で、戦前から使われているものなのだとか。細い紙を細く巻くための機械なのだが、動力は左上のモーターだけ。モーターの回転がその下の軸からカムで方向転換し、その先は大きさの異なる色々なバネで動くようになっている。
詳しい仕組みは私には良く分からないが、説明をしてくださった職人さんが「どこかが少しでもタイミングが狂うと全部だダメになるんだよな」とおっしゃっていた。「戦前からの機械だから、手入れや調整が大変なんだよ」とおっしゃるその顔は、大切なものを見守る優しく誇らしげな顔だった。
機械だけではなく働く人も素晴らしい工場を見学することができて、とての幸せな気分になることができた一日だった。