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「ラプラスの魔女」(東野圭吾) 誰もが世の中には必要なんだと思わせてくれる物語

 誰もが皆世の中には必要なんだと思わせてくれる物語と出会った。稀代のストーリーセラーが綴った物語は、特殊な能力を持った若い男女が主人公の物語だが、ミステリー仕立てで空想科学的な要素を持ちながらも、読む者にいろいろなことを考えさせてくれる一冊だった。 

不思議な能力を持った若者が謎を深める 

ラプラスの魔女

 先週末に一気読みしたのが、東野圭吾さんの「ラプラスの魔女」という一冊。様々なジャンルの物語を世の中に送り出している東野さんだが、「これまでの自分の小説を壊してみたかった」とご本人が語っているとおり、今までの価値観がくつがえされる空想科学ミステリー仕立ての一冊だった。

 物語は、脳神経外科の第一人者である父を持つ羽原円華(うはら まどか)が、母親と北海道旅行に出かけた際に遭遇した自然災害の場面から始まる。予測困難な災害に巻き込まれた円華は、自然の恐ろしさを身を持って体験してしまう。

 数年後、元警官の武尾は一人の若い女性のボディーガードを依頼される。女性の名前は羽原円華。どこか冷たさを持った円華と同行しているうちに、武尾は彼女が持つ不思議な力を目の当たりにすることになる。

 一方その頃、温泉地で硫化水素による死亡事故が発生。地球環境学を教える大学教授の青江は、事故調査のため現地に赴くことになる。さらに、しばらくしてもう一箇所の温泉地でも同様の事故が発生し調査を行うことになるが、調査を進めるうちにふとしたことから数年前に硫化水素によって家族を失った映画監督のことを知る。また、調査の途中で二つの温泉地それぞれで円華と出会った青江は、徐々に彼女の不可思議な能力を知ることになり、硫化水素に関する事件に関しても不可解な点があることに気づいていく。

 温泉地での事故は仕組まれたものだったのか、あるいは特別な何かの力によって引き起こされたものなのか。温泉地で起きた事故と映画監督の一家に起きた事件とが徐々に見えない糸で結ばれてきた時に、事態は円華を中心として国をも巻き込んだ思わぬ方向に進んで行く。

  さすがに東野圭吾さんの作品だけあって、物語の中に張り巡らされている数々の伏線が絶妙に絡み合っていて、長編にもかかわらず一気読みしてしまうほどのめり込んでしまった。また、人間の脳が持つ不可思議な可能性も示されていて、超能力による不可思議な現象も登場するなど興味は尽きない。

 事件や事故、奇妙な能力という要素がふんだんに盛り込まれている作品ながら、読み終えた時には「誰もが世の中に必要なんだ」と思わせてくれるような読後感を覚えた。そこにはタイトルにある「ラプラスの魔女」というキーワードが絡んでくるのだが、それはこの作品を読み終わった人だけが味わえる感覚だろう。

 稀代のストーリーセラーは、様々な手段を使って読者を魅了してくれるようだ。 

ラプラスの魔女

ラプラスの魔女

 

「ラプラスの悪魔」の意味を知る

 この物語のタイトルの元になっているのが、「ラプラスの悪魔」という言葉だ。この言葉は初めて知ったが、物語に流れているメッセージのひとつになっている。

 「ラプラスの悪魔」とは、フランスの数学者ピエール・シモン・ラプラスが立てた仮説が元になった言葉だ。少し長くなるが、物語の中に出てくる言葉を引用したい。

「この世に存在するすべての原子の現在位置と運動量を把握する知性が存在するならば、その存在は、物理学を用いる ことでこれらの原子の時間的変化を計算できるだろうから、未来の状態がどうなるかを完全に予知できる。」(P342から引用)

 物語の中心人物である円華ともう一人の青年が、「ラプラスの悪魔」と呼ばれる仮説に基づいた能力を有しているという設定だが、「未来の状態を完全に予知できる」という部分が非常に興味を惹かれる要素になっている。

 未来を完全に予知できることが幸せなのかどうかということや、世の中にある原子を人と例えるとどういう考え方になるのかなど、スピード感あふれるミステリーの中に様々な要素が込められていて面白い。

 ある意味では読者自身の在り方をも考えさせてくれる物語だったが、こういう物語に出会えるからこそ読書は面白いしやめられない。