手話を学ぶようになって単なる語学習得だけではなく、障がい者を取り巻く全般的なことにも注意が向くようになった。そのひとつとして、最近、企業や学校などで「合理的配慮が必要だ」という言葉に興味を持った。「合理的配慮」という言葉は最近聞くようになった言葉だが、具体的にはどういうことなのだろうか考えてみた。
■権利条約と障害者差別解消法
先日、聴覚障がいの方々がどのようなことで困っているのかということを記事にさせていただいた。知識として知っているだけではなくどのように対応すれば良いかも考えたいが、まずは知るということは大切なことだと思う。
その記事の中で「合理的配慮」という言葉を書かせていただいたが、具体的にはどのようなことなのだろうか。
障害者に関する法令としては、「障害者の権利に関する条約(略称:障害者権利条約)」「障害者基本法」「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律(略称:障害者差別解消法)」などがある。
「障害者権利条約」は2006年12月に国連総会で採択され、日本では今年2014年1月20日に批准された国際条約。テレビや新聞などでも大きく取り上げらたので、皆さんも関心をもたれたのではないだろうか。
「障害者権利条約」が国際的な条約であるのに対して、「障害者基本法」は国内法として昭和45年に施行された法律で、”障害者の憲法”と呼ぶ人もいるほど基本的な法律となっている。
さらに「障害者基本法」に基づいて制定された法律がいくつかあり、その中でも「障害者差別解消法」は「障害者権利条約」の批准に向けた国内法整備の一環として2013年6月に制定された法律だ。
少しごちゃごちゃと書いてしまったが、法体系としては「障害者権利条約」の下に「障害者基本法」が、さらにその下に「障害者差別解消法」があると考えていただければ良いかと思う。
■「障害者差別解消法」の概要
「障害者差別解消法」は2013年6月に制定された”障がいを理由とした差別の解消を推進すること”を目的としており、その中に「合理的配慮」という言葉が出てくる。この法律が施行されるのは2016年4月1日なので、施行に向けて具体的な事項に関する議論が活発化されている。
特に、同法律の第八条には明確に「事業者としての具体的配慮」に関する条項が盛り込まれており、各企業では2016年の施行に向けた検討・取り組みが始まっているようだ。
(事業者における障害を理由とする差別の禁止)
第八条 事業者は、その事業を行うに当たり、障害を理由として障害者でない者と不当な差別的取扱いをすることにより、障害者の権利利益を侵害してはならない。
2 事業者は、その事業を行うに当たり、障害者から現に社会的障壁の除去を必要としている旨の意思の表明があった場合において、その実施に伴う負担が過重でないときは、障害者の権利利益を侵害することとならないよう、当該障害者の性別、年齢及び障害の状態に応じて、社会的障壁の除去の実施について必要かつ合理的な配慮をするように努めなければならない。
■「合理的配慮」とは
長々と法律に関しての説明を書かせていただいたが、企業での取り組みや私たちの生活の中で必要となる「合理的配慮」とは具体的にどういうことなのだろうか。
「合理的配慮」に関してはまだまだ議論が途中段階で、「これだ」というしっかりとしたものが決められてはいないというのが実情だ。しかし、各方面で議論されている内容を簡単に示すと以下のとおりとなる。
・障害に起因する不利益を取り除く努力を企業は積極的に行う
(手話通訳の配置、スロープの設置、手すりの設置等)
・合理的配慮は企業の経営を圧迫しない範囲で行う
簡単に言うと「障害に起因したことを補う努力は行う必要があるが、それは企業経営の妨げにならないようにしなければいけない」ということで、具体的な事例を列挙して「これがスタンダードが」というものを示すまでには至っていないのが実情だ。
「合理的配慮」という言葉は非常に深いと思うが、しっかりと考え、より具体的な方法や方向性を明示する必要があるのではないかと思う。聴覚障がいに関して言えば、講演会で手話通訳士を配置する「情報保証」も合理的配慮の一つだろうし、視覚障がいに関しては音声読み上げソフトに対応した資料の配布や音声図書の配備なども合理的配慮のひとつだろう。
こういったことを、障がい当事者の意見を中心に据えて議論していくという取り組みも大切なことだと思うし、その議論の中心には「相手を思いやる気持ち」があるべきではないだろうか。