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童話のような心温まる一冊「ぶたぶたのおかわり」(矢崎存美)

 子どもの頃は、身の回りのいろいろなものがオモチャだった。なかでも、私が一番お気に入りだったのが、座布団をカーフェリーに見立て、マッチ箱などの四角いものを車に見立てて遊ぶ”カーフェリーゴッコ”だ。

 私が生まれ育ったのは九州鹿児島で、錦江湾を渡るカーフェリーは生活の中にある乗り物だった。今では廃線となった鉄道も町の端を通っていたが、移動の主役はやはり車でありカーフェリーだった。

 座布団のうえにスキマ無くマッチ箱などを並べ、畳の上を海に見立てて部屋の反対側まで引っ張って行く。それを繰り返すだけの遊びだが、友達と遊べなかったり兄が出かけていて家に一人でいる時には、夢中になって楽しんでいた遊びだ。

 だからといって引っ込み思案の子どもだったわけではない。逆に活発すぎて親を手こずらせるぐらいの腕白坊主だったが、一人で遊ぶ時にはひたすら空想の世界に入り込む子どもだったようだ。

 昭和40年代の子どもは、大なり小なりそうやって「空想」の中で遊んでいたのではないだろうか。木の枝は刀になり、腰に巻いたタオルは変身ベルトとなり、首から巻いたバスタオルは空を飛べるマントとなっていた。物が少ない時代は空想力でそれを補っていたということだろうし、大人も今では考えられないぐらいおおらかというか無防備だったのだと思う。 

ぶたぶたのおかわり! (光文社文庫)

 矢崎存美さんの書かれる「ぶたぶたシリーズ」は私が大好きな小説で、主人公はピンクのぬいぐるみ。名前は「山崎ぶたぶた」という。ただのぬいぐるみではなく、歩いて、しゃべって、仕事をしていて、料理が上手な優しい中年男性だ。

 綺麗な奥さんと可愛い娘さん二人がいるが、奥さんと娘さんはぬいぐるみではなく普通の人間。 そんな"ぶたぶたさん"と知り合った人々は、心に抱えていた悩みや悲しみが徐々に薄れていき、ぶたぶたさんと知り合ったことで幸せになっていくというストーリー展開が一貫している。

 ぬいぐるみが生きているという設定自体が奇抜なのだが、どうしてそうなったかということについては一切触れられておらず、「ぶたぶたさんは、ぶたぶたさんだから」というキッパリとした割り切りが小説の中で貫かれている。

 最新刊の「ぶたぶたのおかわり」は料理にまつわる短編集となっていて、どの短編を読んでも料理が主軸となって物語が展開していく。低血圧で午前中は職場で使い物にならない若者が登場したり、味覚音痴で夫婦仲が悪くなっている若妻がいたりと、登場人物も多種多様でちょっと癖のある人物だ。

 ぶたぶたの職業もその度に喫茶店のマスターだったり料理教室の先生だったりと一貫性がないが、それが逆にこのシリーズの楽しさを増している。なんといってもぬいぐるみのブタが主人公なのだから、物語によって職業が違うことぐらいなんでもない。

 子どもの頃はいろいろな場面で想像力を使い補っているが、このシリーズは同じように想像力をフル回転して読むべき物語だ。「なぜこうなんだろう」などと思ってはいけない。想像力をフル回転させることで素直な気持ちで物語を読むことができるし、そうすることで心の中に沈殿している日頃の澱がスーッと晴れてくるような気がする。

 ぶたぶたシリーズは童話のような心温まるシリーズだと思うし、クリスマス時期に読むには最適なシリーズだと思う。 書店で見かけたらぜひ買い求めて読んで欲しいシリーズだ。

ぶたぶたのおかわり! (光文社文庫)

ぶたぶたのおかわり! (光文社文庫)

 

内容(「BOOK」データベースより)
「ぶたぶた」シリーズの名物店が、再び登場!とびきりの朝食を提供するカフェ「こむぎ」。秘密をひとつ話さなければいけない不思議な会員制の喫茶店。町の和風居酒屋「きぬた」。そして今回、新たに築地のお寿司屋さんとしても、ぶたぶたが大活躍!山崎ぶたぶたは、今日もどこかであなたのために、料理の腕を振るっています。すこぶる美味しい、短編コレクション。

クリスマスのぶたぶた (徳間文庫)

クリスマスのぶたぶた (徳間文庫)

 

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