好きなことを職業にするというのは、簡単なようでなかなか難しい。難しいというよりも、好きなことほど職業から遠ざかってしまうような気がする。だからこそ、夢を追い求めて自分のやりたい仕事に就いた人は、圧倒的に少ないと思うし称賛に値すると思う。
昔、コント55号という漫才コンビを皮切りに活躍した萩本欽一さんは、「嫌な仕事ほど向こうからやって来るし、嫌な仕事のほうが多い」という話をされていたが、たいがいはそのとおりだなと思う。
ただし、萩本欽一さんは同時に「嫌な仕事を一生懸命にやることで活路を見いだせた」ということも語られているので、嫌な仕事をするのもまんざら悪いことばかりじゃない。
考えてみると、就きたい職業とやりたい仕事とは必ずしもリンクしているとは限らないし、やりがいのある仕事というのは自分で探しだすものなのかもしれない。
やりたい仕事とやりがいのある仕事というのも微妙にリンクしないものだが、「誰かの役に立ちたい」と思って取り組む仕事はやりがいも達成感も生まれる。「自分のために」ではなく「誰かのために」取り組む仕事は、結果的に自分を成長させてくれるものではないだろうか。
原田マハさんは好きな作家さんの一人だが、登場人物の中に悪役がいないという所も好きだ。時にはちょっと意地悪な人も登場するが、そんなときでもなんとも憎めない人だったりする。
そして、一生懸命に頑張る人が主人公となっている話ばかりで、読み進めるうちにたくさんの元気をいただけることになる。だからこそ、ちょっと疲れたときに原田マハさんの物語を読みたくなるのかもしれない。
今回読んだ「風のマジム」もそんな一冊で、読後の爽やかさを感じさせてくれるという点では、読者を決して裏切らない一冊だ。
人材派遣社員の若い女性が、自分以外の人たちのために懸命に頑張り、ついには社長になってしまうというこの話。一見すると、ありがちなストーリーと思われるかもしれない。
しかし、実話を元にしたフィクションだと聞くと少し話は違ってくる。しかも、原田マハさんがまだ作家としてデビューする前に知り合った方がモデルで、作家になったら書かせてもらいますと約束したというのもまた素敵なお話だ。
そんなことも書かれている”あとがき”も含めて、秋の夜長にゆっくりと楽しんでいただきたい一冊だ。