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「真実の10メートル手前」(米澤 穂信)

書店に行くと最初に文庫本の平台を見る。平台とは書店オススメの本が表紙を上にして置かれている台のことだ。平台を見終わったら企画台と呼ばれるそのお店独自の書籍の台を見て、ひとしきり見終わったら雑誌のコーナーを立ち止まることなくざっと見る。それが終わったら、再度文庫本の平台と企画台をそれぞれもう一度見るというのが私の書店での歩き方だ。欲しい本があれば別だが、何気なく書店に入った時にはこの"歩き方"をすることがほとんどだ。

時間があれば文庫本の棚もゆっくり見るが、時間がない時などは平台を中心に見て歩くことになる。そうすると、お店によって平台に置いてある本が微妙に違うことに気がつく。見たことのある本もあれば初めて見る本もあり、また大好きな作家さんの最新刊を思いがけず見つけることもある。

当たり前のことだが、どのお店でも必ず平台に置いてある本というのがある。一つの書店で見かけただけでは買わなくても、行く先々で見かけると徐々に興味を持って結局買ってしまうこともある。そうやって買った本を読んで素晴らしいなと感動することもあれば、思ったよりも面白くなかったなと感じることもある。そして、自分の感覚で選んだ一冊がとても面白かった時には、自画自賛というかとても誇らしい気持ちになるのだから単純なものだ。 

「真実の10メートル手前」表紙

最近、書店の平台に置かれていることが多い物語のひとつが、米澤穂信さんの書かれた「真実の10メートル手前 (創元推理文庫)」という一冊だ。2015年12月に発売された小説が2018年3月に文庫化されたものだ。

この一冊は「真実の10メートル手前/正義漢/恋累心中/名を刻む死/ナイフを失われた思い出の中に/綱渡りの成功例」の六つの物語からなる短編集で、それぞれの物語に個性的なジャーナリストである大刀洗万智が登場する。

表題作の「真実の10メートル手前」では、急成長した末に急落したベンチャー企業の若き女性広報担当者を追いかけるが、その過程で知り合った人たちへのインタビューで女性広報担当者の孤独と葛藤を知る。また、「正義漢」は非常に短い作品だが、駅のホームで発生した人身事故を巡り、主人公が思いがけない行動をとることによって真実を暴いて行く。

その他の短編もそれぞれ非常に中味が濃くて読み応えがあるが、それぞれの短編に連続性はなく、どちらかというとハッピーエンドのものはない。しかし、読み終わった時に嫌な気持ちになるわけではなく、また共感とは少し違う納得感を感じた。それは、人の心の底にある曖昧さであったり弱さに対して、どこか共感を覚えたり理解できる部分があったりするからだろう。

 読んでよかった。素直にそう思える一冊だった。

真実の10メートル手前 (創元推理文庫)

真実の10メートル手前 (創元推理文庫)