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「家族シアター」(辻村深月)、家族のあり方をしみじみと考えさせられる心温まる一冊

毎年楽しみにしている書籍イベントの一つに「本屋大賞」がある。すでにご存知の方がほとんどだと思うほど有名なイベントだ。

それを承知のうえで改めて書かせていただくと、本屋大賞とは『全国の書店員が一番売りたい本を選ぶ』という趣旨で行われている文学賞的なイベントだ。書店員有志による実行委員会によって運営されており、2004年から始まり現在ではテレビやラジオなどでも報道されるほど有名な大賞となっている。

本好きとしては非常に楽しみにな取り組みで、二次投票にノミネートされる作品のタイトルを見て「これは読んでとても良かった、これはまだ読んでいないが評判の本だな」などと勝手に自己評価を楽しんでいる。今年も4月10日に大賞が発表され、辻村深月さんの『かがみの孤城』が大賞に選ばれたのは記憶に新しいところだ。

大賞に選ばれた一冊や二次投票にノミネートされた物語を読むのも楽しみだし、受賞作品以外の物語も大々的に書店に並ぶのも楽しみだ。出版物の売り上げが落ちてきており書店の数も減少してきているが、本屋大賞が開催されることによって増刷される書籍も数多くある。本屋大賞が出版業界や読書好きに与えるインパクトは、とても大きいものがあるのだ。

家族シアター

本屋大賞受賞作品はこれから読むとして、今回は本屋大賞受賞後に初の文庫化が行われた辻村深月さんの「家族シアター」を読んだ。書店の平台にずらりと並べられていたこの物語は、短編が7編収められた短編集で個人的には非常に感動し一気読みしてしまったほどだ。

この一冊に登場する家族は、姉妹であったり姉弟であったり父と息子であったり、祖父と孫だっったりと様々だ。また、題材も学校生活のことであったり家庭でのことであったりと、こちらもまた様々だ。様々な家族があって様々な生活があって、それをまとめて”家族シアター”として一冊に綴っているということだろう。

真面目で地味な姉をうっとおしく思いながら、年子として同じ高校で学生生活を過ごした妹。姉と同じに見られたくなくて、明るく派手に学生生活を送った妹だが姉の気持ちは妹が考える以上に素敵だった(「「妹」という祝福」)。

アイドルオタクの弟とビジュアル系バンドの追っかけをしている姉。性格も考え方も真逆な姉と弟は、顔を合わすたびに喧嘩ばかりを繰り返していた。しかし、ある日を境にして日に日に元気が無くなっていく姉。バンドメンバーの悪い噂も聞こえてくる中で、大嫌いな姉のことがとても心配になってくる(「サイリウム」)。

息子が小学六年生の時に、担任の先生は熱血漢で人気のある教師だった。ひょんなことから息子のクラスの「親父会」に参加した大学講師の父は、やる気の無さとは裏腹に会の役員を引き受けることになってしまう。渋々引き受けた役員だったが、その縁で息子が卒業してから数年経って、熱血教師の思いがけない秘密を知ってしまう(「タイムカプセルの八年」)。
その他にも、孫娘のことを想う祖父や可愛げのない妹を気にかける姉など、素敵な家族が次々と登場する。自分自身の家族構成や思い出などとは別次元で、読んだ後にそれぞれ温かい気持ちが湧いてくる短編集だった。

春が来て新年度が始まり、ゴールデンウィークを目前にして何となく体も心も疲れが溜まって来たという人は多いだろう。私もその一人だ。そんな疲れた体と心が、この本を読むことでじんわりと癒されていくような気がする。そんな素敵な一冊だった。

家族シアター (講談社文庫)

家族シアター (講談社文庫)