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現代社会の闇を掘り下げる社会派ミステリー、「漂う子」(丸山正樹)

デビュー作を読んで感激し、その後新作が発売されるたびに追いかけるように読むことがある。そういう自分の感性というか感覚にぴったりとした作家さんの物語に出会えると幸運だなと思うし、新作が発売されるのを心待ちにしてしまう。

今回、デビュー作を読んで素晴らしいなようだなと思った作家さんが、新たに社会派ミステリーを発表した。デビュー作と同様に、心の中に響く素晴らしい一冊だった。

社会の闇を掘り下げる社会派ミステリー

「漂う子」表紙

今日ご紹介するのは、丸山正樹さんが書かれた「漂う子」という一冊。豊かになったかに思える日本で、貧困に振り回される子ども達が居るということをつまびらかにした一冊だ。

ある日、一人の少女が消えた。父親とともに突然失踪したのだ。

主人公の二村 直は30才を過ぎたフリーランスのカメラマン。年上の恋人、相野祥子は小学校の教諭であり小学四年生の学年主任も務めている。その祥子の教え子である沙智が、ある日突然父親とともに所在不明となった。

直は体調不良ですぐに行動することのできない祥子に代わり、沙智の行方を追うことになった。微かな手がかりを求めて名古屋に赴く直。そこで知り合った児童相談所の職員やNPOの代表などと交流するうちに、現代社会の闇とも言える「居所不明児童」の実態が明らかになっていく。自らの過去に対峙していく直にとって、沙智の行方を追うこと自体が自分自身と祥子とのことを振り返ることにも繋がっていく。

タイトルの「漂う子」というのは社会の中を漂うように流れていく様子を表しているが、物語の中にもう一つ流れているテーマは「忘れ去られる子ども達がいる」ということだろう。

親の虐待やネグレスト(養育放棄)だけではなく、犯罪や貧困により学校にすら通えない子どもがいる。そういうことを、フィクションとして世の中に知らしめる内容であり、読み進めていくうちに内容的なインパクトの大きさに驚かされる。

物語の中には残酷な描写や悲惨な状況の描写は出てこない。そういった描写が出てこないにもかかわらず、育児に関する様々な問題が胸に突き刺さってくる。それは、著者の綿密な取材に基づいた構成があるからこそだろう。

さらに、行方不明になっている少女の話と並行して、主人公の生い立ちや恋人の生い立ちに関連する物語が並行して進んでおり、居所不明となった少女の物語を縦軸としながら様々な物語が横軸として織り込まれている。

社会的な問題や課題を読者に提示しながらも、家族とは親子とはどういうものなのかを真剣に考えさせられる一冊だ。物語の結末はやや重い内容ながらも、読後には心のどこかにほっとしたような気持ちも与えてくれる一冊だった。

漂う子

漂う子

 

デビュー作もぜひ読んでいただきたい

oyakode-polepole.hatenablog.com

丸山正樹さんのデビュー作は、聴覚障害の両親と兄弟に囲まれて育った男性が主人公の「デフ・ヴォイス 法廷の手話通訳士」という一冊だ。手話を勉強している私にとっては法廷での手話通訳という設定に引き込まれたが、それを除いても非常に中身の濃い素晴らしい物語だと思う。

本好きで様々な物語を年間を通じて読んでいるが、社会の闇を描くような小説というのは実はそれほど多く読んでいない。それは、社会派の物語は読むのに気合いが必要だし、精神的にも体力的にも調子が良い時でなければ正面から向き合うことができないからだ。

それでもこういった物語というのは読むべきだと思うし、今まで知らなかったことを知ることの大切さも感じるべきだと思う。そういったことも含めて、私自身ももう一度「デフ・ヴォイス」を読み返してみようと思う。