気分はポレポレ よろず情報ブログ

大好きな文房具や書籍、日常のことなどを随時更新中です!

感動の一気読み必須、「無私の日本人」(磯田道史)

 私的な感情にとらわれたり、利害の計算をしたりしないことを「無私」と呼ぶようだ。「自分だけは損をしたくない」とか「こうすれば得をするのではないか」という気持ちとは正反対の状態で、禅の世界もこの境地に至るための訓練を行っていると言われている。

 そいった私利私欲を捨てることの尊さは子どもの頃から教えられてきたが、それを教えてくれたのは祖父母であり両親でもあった。しかし、実際にそういった考えや行動ができているかというと全く自信がなく、どこかで必ず保身や損得を考えてしまう。

 それでも「無私の心を持つべきだ」と考え続けることは大切で、自分の気持ちがそこから外れてしまったことを認識する必要はあるだろう。かなり難しいことだが、目指すべき方向性ではあるとは思う。

f:id:polepole103:20160323055423j:plain

 磯田道史さんの書かれた「無私の日本人 (文春文庫)」は、無私の心を持って生きた江戸時代の人々の話だ。3つの物語が綴られた短編集だが、どの物語も己をかえりみず他者のために事を成し遂げた人々の行動が描かれている。

 特に、仙台藩吉岡宿の窮状を救うために奔走した穀田屋十三郎の話は、殿様にお金を貸して利息を取るという、史実とは思えないほど奇想天外な物語だ。自分や家族のことは顧みず、吉岡宿全体のため子孫のために、まさに無私の心で奔走した姿は感動を覚える。

 読み進めていくうちに胸が熱くなるこの物語は、『殿、利息でござる!』というタイトルで映画化され、5月14日からロードショーが予定されている。どのような脚本がなされているのかとても興味深い。

 そのほかにも、自分の生活を顧みることなくひたすら書を読み、儒学の心を庶民に説いていった中根東里の話や、与えることを行い続けた幕末の詩人であり尼僧でもある大田垣蓮月の話もそれぞれ心を揺り動かされてしまう。

 他者のために無私の心を持って考え行動することが、いかに大変でありいかに大切なのかがわかる一冊。読み終わった時に清々しい感動が胸の中に広がる、一気読み必須の一冊だ。 

無私の日本人 (文春文庫)

無私の日本人 (文春文庫)

 

 著者の磯田道史さんは、「 武士の家計簿」を書かれた方だ。古文書を丹念に読み込み、歴史の影に埋もれていた素晴らしい人物を現代に蘇らせてくれる。

 あとがきにはこの物語を書くに至った顛末が書かれているが、そのこと自体も小説になるのではないかと思うほど素晴らしい内容だ。古文書を読みながら胸が震えたという磯田さん自身のあとがきも、磯田さん自身の無私の心を感じさせてくれるものだった。

 本書を読んだら、あとがきまで一気に読むことをぜひオススメしたい。