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「家族写真」(萩原 浩)/平凡なようで心温まる家族の姿を描いた短編集

 「家族」という言葉にはいろいろな意味がある。単に両親や兄弟・姉妹とで構成された家族もあれば、大好きな犬や猫などのペットを含めた家族もあるだろう。また、古き良き時代には、社員を家族として扱ってきた企業もたくさんあった。一人一人に何かしらの「家族」があって、そこにはたくさんの物語が現在進行形で繰り広げられているのだろうと思う。

切なくて、甘酸っぱくて、笑って、泣ける短編集

家族写真 (講談社文庫)

 今年4月に文庫化されたのが、荻原浩さんが書かれた「家族写真 (講談社文庫)」という一冊。7つの家族のそれぞれの思いを綴った、心温まる短編集だ。

 男手ひとつで育てた娘が、いつのまに大人になって結婚することになった。彼氏を自宅に連れてきて結婚の挨拶をさせようとするが、話を巧みにすり替えたりはぐらかしたりするのが、父親の最後のささやかな抵抗だ。亡き妻の遺影とかすかに残るテープレコーダーの声を聞きながら、妻との出会いや結婚してからの生活、娘との家庭生活を淡々と、そして大切に思い出す父の姿があった。(「結婚しようよ」)

他にも、妻に先立たれて町の小さな写真館を営みながら子ども達を育てた父親が、突然の病で倒れたことで家族の絆が蘇ってくる表題作の「家族写真」など、笑って泣けてしんみりとして、最後にはどれも心が温かくなる7つの短編が詰まっている。

 萩原浩さんといえば、最近では「花のさくら通り (集英社文庫)」が書店の平台を飾っているが、その他にも数々の心温まる作品をいくつも世の中に送り出している作家さんだ。

 デビュー作から続く「ユニバーサル広告社」シリーズは、ユーモア溢れる展開の中にどこかほろっとさせるものが随所にちりばめられていた。その作風は「家族写真」にも引き継がれているとともに、全体的にいわゆる「さえない家族」が主人公となっている。だからこそ共感を感じる部分が多いのかもしれない。

 また、7作品中6作品の主人公が中年以降の男性で、それぞれの主人公が揃って健気に生きているという点も特徴的な短編集だろう。普通の家庭で起こり得る普通の出来事が、世の中にある様々な家族の在り方を教えてくれて、読み終わった時にはしみじみとした温かさを感じた。

 主人公達と同世代の私だからこそ「しみじみとした温かさ」を感じたが、これを若い人が読んだらどのような感想を持つのだろうか。そういった意味でも実に興味深い一冊だなと思う。

家族写真 (講談社文庫)

家族写真 (講談社文庫)

 

読んでいて気持ちが楽になる小説もまた良い

 今回ご紹介した一冊は、家族の在り方や人生の悲哀、家族とのほろ苦い交流や温かい出来事など、だれの人生にもあり得る内容をある意味では淡々と綴った短編集だ。そういう意味では肩肘を張らずにゆったりと読むことができる一冊だし、読み終わった時に心の中にじんわりとした感動を得ることができる。

 イギリスの詩人バイロンは「事実は小説よりも奇なり」という言葉を残しているが、一人一人の人生にはそれこそたくさんのドラマが繰り広げられているだろう。それが「家族」という集合体になればそれだけ繰り広げられているドラマは多種多様で、だからこそ絆の大切さが必要となるのだろうと思う。

 「家族」という言葉に対する感じ方もまた人それぞれだと思うが、「大切にする」という言葉とセットになることが一番幸せなことだろう。