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「天国までの百マイル」(浅田次郎) 感動の一冊を読み返して、自分の変化に気付かされた

 良い物語というのはいつまでも心の中に残っているもので、「自分だけのベストセラー」みたいな物語がいくつかある。時にはそういった物語を再読してみることもあるが、先日文庫化された一冊を読んで自分の視点が変わっていることに気づかされた。

魂を揺さぶられる物語  

天国までの百マイル (講談社文庫)

 最近文庫化されて書店の平台を飾っているのが、浅田次郎さんの「天国までの百マイル 」。本好きの方なら書店の平台に積み重なっているのを見かけたことがあるだろうし、単行本として発売された当初に読んでいらっしゃるかもしれない。

 事業に失敗して多額の借金を清算し、そのうえ愛する妻子とも別れざるを得なかった中年男の城所安男。

 虫歯の悪化で抜けてしまった前歯を治療するお金すらなく、元同級生が経営している会社のお荷物として雇われながらも、給料のほぼ全てを養育費として前妻に送らざるを得ない状態となっていた。

 そんな状態でもなんとか飢えずに済んでいたのは、落ちぶれた安男にひたすら献身的につくしてくれる水商売のマリという女性のおかげだった。

 父親とは生まれたばかりの頃に死別し、それでも兄二人と姉との4人の子どもを立派に育て上げた母親。安男が事業に失敗したことから兄や姉からは関わりを持たれなくなったが、それでも母はいつでも安夫の味方になってくれていた。

 そんな母が重い心臓病を患い、余命いくばくもない状態で入院した。医師から手術は難しいという話を聞かされた安男は、同時に千葉県の外房にあるカトリック系の病院に「神の手」を持つと称される医者がいることを知らされる。

 手術に反対する兄と姉を無理やり説き伏せ、ポンコツのワゴン車を使って100マイル先の病院まで母を送り届けることを決意する安男。真夏のうだるような暑さの中、重い心臓病を患っている母を乗せた車を必死になって走らせる。

 その道中には思いもかけない人の優しさが溢れ、辿り着いた先には考えもしなかった奇跡が待ち受けていた。

 浅田次郎さんが描かれる物語には、心にしみるものや胸が熱くなるものなどたくさんの名作がある。 いまさらご紹介する必要もないほど有名な作家さんだが、新作が発表されるたびに「感動」の二文字を毎回与えてくれる、稀代のストーリーセラーだと思う。

 「天国までの百マイル」に登場する人々は、主人公の安男を始めとして心のどこかに痛みや影を持っている人が多い。それなのに、主人公に関わってくる人々とのやりとりの中で、読み手に温かいものを与え続けながら物語は進んで行く。

 心が疲れた時や痛んだ時に、じわっとしみて知らず知らずのうちに癒してくれる。そんな、心の中に奇跡を起こしてくれる一冊だ。

天国までの百マイル (講談社文庫)

天国までの百マイル (講談社文庫)

 

文庫本を再読して自分の変化を知った

 この物語が単行本として刊行されたのは、今から15年前の2000年11月だ。私は刊行されてすぐに読んだが、それはむすこがもうすぐ2才になろうかという時期だった。

 その時には、主人公の安男が抱える心の苦悩や両親に対する想いが胸に響き、ラストの部分では思わず涙したことを思い出す。母を思う気持ちが自分の姿とある意味でダブり、世間の冷たさと温かさを主人公とともに感じたものだ。

 今回文庫化されたことを機に再読してみたが、安男のことを気遣う母親の気持ちや、生まれたばかりの我が子を見ずに死んでしまった父親の気持ちに同調し、ラストの部分では安男を心の中で応援している自分がいた。

 自分自身が我が子の成長を16年間見守り、笑ったり怒ったり心配したりということを繰り返してきただけに、当たり前のことながら親としての気持ちが育ってきたんだなと感じた。

 「『育児』と書いて『児(子)に育てられる』と読む」と言ったのは誰だっただろうか。子どもを育ててきたことで、親として子どもに育てられてきたんだなということを改めて感じた。

 名作というのはいつまでも心の中に残るものだが、年月を経て読み返してみることで、自分の成長をも感じることのできるものなのだということに気づいた。