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「母性」(湊かなえ)/想いのすれ違いが哀しくも心に染みる物語

 むすこが幼い頃はおむつ替えから入浴、夜中のミルクから数ヶ月おきの検診までなんでもやった。最近の言葉でいうと「育メン」ということになるのかもしれないが、当時はやらざるを得ない事情もあってごく自然に育児を手伝っていた。
 「母性本能」という言葉があるように「父性本能」もあるだろうなと思うし、会社で仕事をしていてもむすこの顔が思い浮かび、会いたくてたまらなくなったことを時々懐かしく思い出す。
 子を想う親の気持ちは深いと思うし、親を慕う子の気持ちも尊いと思う。そんな親子の気持ちのすれ違いを描いた、哀しくも心に染みる物語に出会った。

母と娘の気持ちがすれ違う

母性 (新潮文庫)

 湊かなえさんの書かれた「母性 (新潮文庫)」という物語が、つい先日文庫化された。以前から読みたかった一冊だったのですぐに買い求めて読み始めたが、今回もまた一気読みしてしまうほどすばらしい作品だった。

 物語の主軸になっているのは、幼い頃から母親の愛情を一身に受けて育った母と、その母からひたむきな愛情を注がれて育ってきた娘とのやりとり。その娘が高校生になって、突然自殺を図ったところから物語は始まる。

 物語は母親の独白によって始まり、幼かった頃から結婚するまで、結婚してから娘を授かるまで、娘を授かって育てている最中のことなど、様々な場面を振り返りながら語られていく。

 一方で、母親の独白の後には娘の独白が続いており、母親から見た娘の考え方とはまた違った角度から、二人に起きた出来事について語られていく。途中で第三者の独白が入るが、それは物語の終盤になって意味を持ってくることになる。

 自分が愛情を注がれて育てられたように、娘にも精一杯の愛情を注ごうとする母親。母親から注がれる愛情に応えようと、自分なりの愛情表現を返そうとする娘。二人の想いは同じなのに、性格の違いや周囲の環境などによって母と娘の気持ちが微妙に相手に届きにくくなっていく。

 そして、物語は父親をも巻き込んだ形で終焉を迎えるが、そこにはさらに心に染みるような結末が待っていた。

 湊かなえさんの作品は、女性を主人公とした心にズシッと響くような内容が多い。読後に胸に広がるのは爽快感や温かさではなく、本を閉じてからしばし考え込んでしまうような読後感だ。

 今回読んだ「母性」も、読み終わってからいろいろと考えさせられる内容だったが、それが決してバッドエンドの味わいではなく、どちらかというと心に染み込んでいくような感情だった。

 相手を想う気持ちというのはどこまでも深くて純粋なのだが、それを想うことと伝えることとは別で、伝えることがどんなに大変なのかが心の中に残ったという感じだろうか。なかなか深い内容の一冊だと思う。 

母性 (新潮文庫)

母性 (新潮文庫)

 

本当の気持ちを伝えることの難しさ

 自分が思っていることを、相手に完全に伝えるというのは難しい。言葉で伝えたり文字で伝えたりと、伝える方法はいろいろとあるが、どの方法を使っても「完全に伝えきる」ということはできなのではないだろうか。

 それは「想い」というものや「気持ち」というものが、すべて言葉や文字に置き換えられないからであろう。

 例えば、胸が苦しくなるような愛情を子どもに感じたとしよう。それを言葉にすると「胸が苦しいほど愛情を持っている」ということになるのだろう。しかし、その感情を持つまでには、そこに至るまでのプロセスや出来事というものがあるはずで、それを一括りにして言葉にしたところで、それは自分の気持ちを完全に表したことにはならないのではないだろうか。

 言葉だけではなく、例えば言葉をかけながら子どもの頭を優しく撫でたり、無言であっても優しく抱きしめるということで伝わる感情もあるだろう。かように、自分の気持ちを相手に伝えるということはとても難しいことだし、丁寧に根気よく行うべきことだろうと思う。

 「母性」を読んで、ふとそういうことを考えてしまった。