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まっすぐ一所懸命に生きることは素晴らしきことだ/「一路」(浅田次郎)

今週のお題「最近おもしろかった本」

 自分に任された仕事をしていると、仕事の進め方や方向性などいろいろと迷うことがある。最初にこうと決めた結果に持って行くというのもなかなかたいへんで、時には妥協して当初よりも安易な方法をとることもあるだろう。

 また、職場の上司の中には朝令暮改の人がいたり、手柄は自分でミスは部下という人も少なからずいると思う。部下を持つ身になればなったで、人の使い方で悩むということも出てくる。とにかく、小さなことでも大きなことでも「何かを成す」ということは苦労がつきものだ。

 現代だけではなく江戸時代にもそういった苦労をした人々はたくさんいて、大名の参勤交代でも苦労が絶えなかったようだ。

参勤交代を成し遂げる物語 

一路(上) (中公文庫)

 浅田次郎さんの最新作「一路」。最近書店の平台に置いてあるお店が多いので、皆さんも目にされたことがあるのではないだろうか。江戸末期の参勤交代を題材とした小説で、国元から江戸に入るまでの苦労を綴るとともに、そこに潜んだ陰謀を防ぐというミステリー仕立てにもなっている時代小説だ。

 主人公の小野寺一路は国元を離れて江戸で剣術と勉学に勤しんでいたが、父の急死によって急遽家督を相続。交代寄合「蒔坂家」の御供頭として、江戸への参勤行列を差配しなければいけなくなった。

 父は失火により急死したため跡継ぎの一路は周囲から冷たく扱われ、間近に迫った参勤交代を無事に差配することで失火の責任を逃れることができるという厳しい条件での差配だ。蒔坂家の当主である左京大夫は芝居好きのうつけ者だという評判で、道中の苦労も並大抵ではないと思われた。

 さらに、参勤交代中にお家乗っ取りの陰謀まで浮上してきて、父から引き継ぎのないまま参勤交代を行わなければならない一路は、実家の焼け跡から偶然見つかった家伝の「行軍録」を唯一の手がかりとして、古式に則った参勤交代に取り組むことになる。

 うつけ者だと思っていた当主は、実は名君ではないかと思われるような行動や言動が見え隠れし、様々な思惑の入り交じった江戸への参勤交代は波乱含みで始まる。しかし、吹雪の山越えや駆け足での行軍などを経て、事態は思わぬ方向へと進んでいく。

 時代小説という形をとりながらも、人の心の在り方や人生観などが絶妙に織り込まれていて、さすがに浅田次郎さんの作品だけあるなと感じた。正義を貫くことの大切さと困難さも知ることができる一冊だが、読後の清涼感と胸に残る温かさは格別だった。

 今年読んだ本の中でも上位に入るこの作品。上・下巻に分かれて入るものの、一気読むしてしまうこと間違い無しだ。 

一路(上) (中公文庫)

一路(上) (中公文庫)

 
一路(下) (中公文庫)

一路(下) (中公文庫)

 

 「一生懸命」と「一所懸命」の違い

 主人公の小野寺一路(おのでら いちろ)は、その名のとおり曲がったことが大嫌いで己の信じる道をまっすぐに進んでいく若者だ。また、一路が仕える蒔坂家の当主である左京大夫も、一見するとうつけ者のようでいて、実は信じる道をまっすぐに正しく進んでいく人物だった。

 物語のなかで「一所懸命」という言葉がでてくるが、その言葉は「信じた道をひたすら突き進む」という意味で使われていた。

 元々「一所懸命」という言葉は、武士が幕府などから賜った一か所の領地を命がけで守り、それを生活の頼りにして生きたことに由来しているらしい。己の大切にすべきもの、信じるものを守るために命がけで動くことが「一所懸命」という言葉の本来の意味だ。

 現在では「一所懸命」は「一生懸命」という言葉に置き換えて使われることが多いが、その意味は「ひたむきに」とか「ひたすら」ということだろう。しかし、本来は「己の大切にすべきもの、信じるものを守るために命がけで動く」という意味なのであれば、簡単に使える言葉でもないなと感じた。

 自分の大切な物のために命がけで動く。そういうことを人生の中で貫くというのはとても大変なことだろうが、それをやり遂げることができるならば、その人の人生は素晴らしいものになるのではないだろうか。

 私も自分にとっての「一所懸命」になれるものは何なのか、今一度考えてみたい。