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心温まる連作短編集「物語のおわり」(湊かなえ)

 人の心というのは、表情や言動だけでは判断することができない。悲しんでいても笑っていられるし、嬉しくても悲しいふりをすることができるからだ。どの人にもそれぞれの人生があって物語があるが、嬉しいことや悲しいことすべてを含めての物語だろうと思う。

 お気に入りの作家さんである湊かなえさんの単行本を読んだが、ちょっと哀しくて、それでいて心温まる連作短編集だった。「旅」がテーマとなっている連作短編集だが、「旅」と「人生」は同じようなものなんだなということを感じさせてもらった。

北海道を舞台にした物語

物語のおわり

  山間の田舎町でパン屋の娘として生まれ育った絵美。彼女は素敵な恋をして幸せな毎日を過ごすようになるが、結婚を前にして作家への道が開きはじめて人生の岐路に立たされる。自分の人生をどうするのか。その結末が示されないまま最初の短編が終わる。

 湊かなえさんが書かれた「物語のおわり」という一冊は、「空の彼方」というタイトルがつけられたこの最初の短編が、北海道を旅する様々な人の間をちょっとした縁を経てバトンタッチされていくという構成となっている。

 子どもを身ごもりながら旅をする女性、写真家になることを諦めて最後の旅に出る若者、作家を目指しながらも自分の才能に見切りをつけて就職前のツーリングにでかけた女性など、何人もの旅人の手に「空の彼方」が受け継がれていく。

 それぞれの人生の中に垣間見ることのできるちょっとした哀しみと、哀しみを包んでいる温かいものとが物語が進むにつれて垣間見えてくる。そして、最終章で迎える「空の彼方」の結末を知ることで、連作短編集全体に流れている人の人生の優しさを読者は知ることになる。

 湊かなえさんといえば、女性の心理を描いた作品を数多く書かれているが、今回も連作短編集の中で中心となっているのはやはり女性だ。女性の立場や女性ならではの苦悩や心の動きを巧みに描きながら、それでいて読後に爽やかさと温かさが心の中に流れてくるのはさすがだと思う。

 もしも、心が少しだけ弱っているのであれば、この一冊を読むだけで癒されてしまうのかもしれないなと感じるほど心温まる物語だった。

物語のおわり

物語のおわり

 

 心温まる物語を読んで癒される

 時代小説も好きだし推理小説も好きだ。SFも読むしハードボイルドな作品も少なからず読む。それでも好んで読むのは、読み終わった時に心がフワッと温かくなるような物語が多い。

 カー用品のイエローハットを創業した鍵山秀三郎氏は、新聞でもラジオでもテレビでも、心が悲しくなるようなニュースは意識して見聞きしないようにされているそうだ。心の中にそういったことを入れないことで、常に心を磨くことの一助にされているらしい。

 身体の健康を保つために良質の食べ物を口にするのと同様に、心の健康を保つために良質の物語を頭の中に入れる。そう考えると、心温まる物語を自分で吟味して読んでみるというのは、心を健やかに保つためには必要なことなのかもしれない。

 身体に栄養を与えるのと同様に、心に栄養を与えるのもまた読書の一つの役割だと思う。