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髪型を変えると人生が変わる!「わらの人」(山本甲士)

 髪を切ると気分転換になる。髪型を変えると気持ちが変わる。ちょっとしたことだが、理髪店や美容院に行くと気持ちに変化があるという人は多いのではないだろうか。

 私が子どもの頃、生まれ育った九州の地方都市の公立中学校では、男子生徒はすべて坊主頭だった。いわゆる丸刈りというやつで、「基本は五分刈り」というのが校則で決められていて徹底されていた。昭和50年代前半の話である。

 今では考えられないことだと思うが、小学校を卒業すると男子は全員丸刈りにして中学入学に備えていた。かなり抵抗があった友人もいたようだが、3歳年上の兄がいた私にとっては「丸刈りにするのは子供から卒業すること」というイメージがあったので、理髪店に行ってバリカンを入れられた時にはワクワクしたことを思い出す。

 中学校に入ってから上級生が「校則を変えて長髪可能にしよう」と生徒集会で訴えたことがあったが、賛同する者はごく少数で私を含めた大多数は「丸刈りの信仰者」だった。「丸刈りは大人のしるし」と思っていたのだから当然のことだろう。

 今から考えると実に短絡的な発想だったかもしれないが、それだけ髪型を変えるという事は気持ちも変えるという事だったのだろうと思う。

わらの人 (文春文庫) 

 山本甲士さんの「わらの人 」という一冊は、地方都市にある小さな理髪店が舞台の一つになっているが、理髪店の店主が主役ではなく髪を切りに行った人が主役の連絡短編集だ。

 理髪店の店主は30歳過ぎぐらいの女主人。明るく朗らかな彼女はマッサージも上手で、髪を切る前にマッサージを受けているうちに夢見心地になり、女主人に言われるままの髪型になってしまう。

 自分のイメージとはまったく異なった髪型になったお客が、それぞれの短編の主人公。気が弱くて上司にも後輩にも疎んじられていたOLが大変身をしたり、退職して元気をなくした老人が活気を取り戻したりと、髪型が変わったことで人生までもが変わってくるという話が綴られている。

 この一冊を読んで「何事も本人の考え方と行動次第だな」ということを感じるとともに、スカッと爽やかな読後感が残るこの一冊は一気読みしてしまうぐらい軽快に読むことができた。

 山本甲士さんは「ひなた弁当」や「戻る男 」など、ペーソスの漂う人情的な物語を書かれる人だが、主人公に対する包み込むような優しさを感じる物語を書く方でもある。「わらの人」でも登場人物は良い人ばかりで、良い人なだけに損をしている人を描くとともに、最後はハッピーエンドに持ってくるあたりはさすがだし小気味良い。

 物語を読んですっきりとした気分になりたい人には、ぜひ読んでほしい一冊だ。いかがですか?

わらの人 (文春文庫)

わらの人 (文春文庫)