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「山女日記」(湊かなえ)

 登山ブームが訪れてから久しい。「レジャー白書2013年」によると、年1回以上登山を楽しんだという登山参加人口は2012年が860万人と、前年と比べて50万人増えているらしい。一時のブームは去ったものの、今でも地道に登山客は増えているようだ。

 登山者の内訳を見てみると、登山人口のうち40%以上が60才以上の方で、30才代から50才代の方は全体の10%にも満たない。定年退職後の健康志向の高まりが原因とも言えるし、毎年30万人が訪れるという富士登山の影響もあるのかもしれない。

 私もむすこが小学校高学年から中学を卒業するまでは割と山に登っていて、多い時には毎月1回以上はどこかの山に登っていた。最近は仕事が忙しくなり、またむすこも学業が忙しくなったこともあり山から遠ざかっているが、二人で好んで登った八ヶ岳の山並みは今でも素敵な記憶として残っている。

 遠くから見るととても人の足ではたどり着けそうもない山の頂に登るというのは、自己達成感がとても高くて精神的にもとても良い。山頂から遥か遠くを見渡しながら食べる食事は格別だし、変わりやすい山の天候を読みながらコースタイムを確認していくという手順も知的ゲームのようで楽しい。

 もちろん、山の危険性を十分に学び認識するとともに、セルフレスキューを習得して登山を楽しむというのは基本中の基本。そういったことが出来て初めて「趣味は登山です」といえるような気がする。

山女日記

 湊かなえさんの物語には女性が主人公として登場することが多いが、「山女日記」でも様々なタイプの女性が登場する。登場する女性はそれぞれが登山に関連した思い出を持っており、そのうえで現在も山に登ることで何かを変えていこうとしている姿が描かれている。

 物語はひとつひとつの章が独立した短編となっているが、それぞれの話がどこかで共通するという連作短編の形をとっている。ひとつの短編で登場した人物が他の短編で脇役として登場したり、また別な短編では重要なキーを持つ人物として描かれていたりする。時には前のページをめくりなおして、どのような人物だったかを確かめてみるような場面もでてくる。

 だからこそ、読み終わった時には物語の主人公達のことはもとより、「山」という存在や「登山」の魅力というものを改めて感じたような気分になってしまった。

 女性の心の機微を描くことが上手な作家さんは、山や登山という行動自体にも意味を持たせてくれる力もあるのではないか。そんなことを感じさせてくれる一冊だった。

 登山が好きな人もそうでも無い人も楽しめる一冊だが、自分が登った山が登場すればそれはそれでさらに興味深く読めるのかもしれない。

山女日記

山女日記

 

内容紹介

 このまま結婚していいのだろうかーーその答えを出すため、「妙高山」で初めての登山をする百貨店勤めの律子。一緒に登る同僚の由美は仲人である部長と不倫中だ。由美の言動が何もかも気に入らない律子は、つい彼女に厳しく当たってしまう。/医者の妻である姉から「利尻山」に誘われた希美。翻訳家の仕事がうまくいかず、親の脛をかじる希美は、雨の登山中、ずっと姉から見下されているという思いが拭えない。/「トンガリロ」トレッキングツアーに参加した帽子デザイナーの柚月。前にきたときは、吉田くんとの自由旅行だった。彼と結婚するつもりだったのに、どうして、今、私は一人なんだろうか……。 真面目に、正直に、懸命に生きてきた。私の人生はこんなはずではなかったのに……。誰にも言えない「思い」を抱え、一歩一歩、山を登る女たちは、やがて自分なりの小さな光を見いだしていく。女性の心理を丁寧に描き込み、共感と感動を呼ぶ連作長篇。