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「Nのために」(湊かなえ)

 誰かが誰かのために行動を起こすとき、それが相手のことを思っての善意だとしても不幸な結果になることがある。人の心というのは複雑なもので、「言わなくてもわかる」ということがあるかと思えば「言われないとわからないと」いうこともある。

 素直に自分の気持ちを伝えることができればこういう行き違いはなくなるのだろうが、言いたいけど言えなかったり、言わない方が良いだろうと遠慮することは多々あることだ。

 元来日本には「言わぬが花」という言葉や「雄弁は銀、沈黙は金」という言葉があるように、とかく「思ったことをストレートに言わないことの美学」のようなものがある。それは学校でも会社でも同じで、思ったことを素直に口にする人には案外疎まれたりする。

 「遠回しに話をして相手に察してもらう」というのが日本的な会話方法だったりするが、それが出来ない人を「空気が読めない」とか「天然だ」というように簡単に片付けちしまうのはいかがなものだろうか。

 逆に、思ったことや感じたことをまっすぐに伝えてまっすぐに受けとることが出来るような間柄になれば、その関係性は非常に強いものになるのかもしれない。

Nのために (双葉文庫)

 湊かなえさんの「Nのために (双葉文庫)」に登場する人物は、誰も彼も相手のことを慮って(おもんばかって)行動し発言する。そのことが謎をさらに深めていくことになるのだが、小説の中だけではなく現実にもこういったことはあり得ることだ。

  湊かなえさんの書かれる小説は女性を主人公としたものが多く、どの物語でも人の心の奥深くまで入り込むような一種の哀しさと切なさを感じる。この物語でも人の心の奥深くまで入り込んでいて、二転三転する意外な事実がそこに畳み込むように被さってくる。

 物語の進行は章ごとに主体となる人物が変わっていき、それぞれの立場でひとつの事件を追いかけて行くことで進んでいくが、それぞれの立場で事件を描いて行くことで徐々に謎が解けていく。

 人それぞれ、人生それぞれだが、人が人と知り合うことで自分では思いもしなかった方向に人生が転がって行く。そんな恐さや哀しさをも感じる一冊だった。

Nのために (双葉文庫)

Nのために (双葉文庫)

 

内容(「BOOK」データベースより)

「N」と出会う時、悲劇は起こる―。大学一年生の秋、杉下希美は運命的な出会いをする。台風による床上浸水がきっかけで、同じアパートの安藤望・西崎真人と親しくなったのだ。努力家の安藤と、小説家志望の西崎。それぞれにトラウマと屈折があり、夢を抱く三人は、やがてある計画に手を染めた。すべては「N」のために―。タワーマンションで起きた悲劇的な殺人事件。そして、その真実をモノローグ形式で抒情的に解き明かす、著者渾身の連作長編。『告白』『少女』『贖罪』に続く、新たなるステージ。