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富士の樹海で縄文生活?「穴」(原 宏一)

  私は常に本が手元にないと落ち着かない読書中毒だが、移動の時やちょっと一息つきたいときには気軽に読める一冊が良い。いろいろな作者さんの物語があるが、原宏一さんの作品は気軽に読めて心温まるものが多いなと感じている。

 ■富士の樹海が物語の舞台

穴 (実業之日本社文庫)

 今日ご紹介するのは、原宏一さんの「穴」という一冊。富士の樹海にある穴に落ちたことから始まるこの物語は、奇想天外な内容ながら人の心の深いところを描いた作品だった。

内容(「BOOK」データベースより)

起業するも手形詐欺に遭い借金まみれになった青年・カズヒロ。代議士の裏切りで罪を着せられた中年秘書・コタニ。御曹司を射止めるも調停離婚させられた元OL・タツコ。人生に行き詰まり富士の樹海に迷い込んだ彼等は、幻の洞窟―“穴”で生活する老人・ロクさんに出会い、自給自足の共同生活を始める。洞窟の奥底で稀少金属が見つかったとき、彼らは日本転覆を企てる!?

 富士の樹海といえば自殺者の多い場所としても有名で、ここを舞台とした物語はいろいろと描かれている。この「穴」もそのひとつだが、重苦しい雰囲気はみじんもなく、穴の中での需給自足も含めてコミカルな雰囲気で物語は進んでいく。

  幻の洞窟の住人ロクさんの素性は分からないが、そこに集まってきた面々はいずれも社会でうまくいかずドロップアウトして者ばかり。それでも洞窟生活を続けていくうちに、徐々に元居た社会に復帰したくなってくるというのが面白い。

 欲を捨てて逃げ出したつもりが、ちょっとしたことで逆に欲がわいてきて再び社会に戻りたくなる。実際にも起こり得る話だなと感じた。

 それでも、穴の中や樹海の中で繰り広げられる”縄文生活”の描写や内容は、読んでいて思わず何日か体験したくなるような面白さがある。原宏一さんの作品にはこういった非現実的な話がときどき出てくるが、どれも実際に体験したくなることばかりだなと感じた。

  社会を飛び出してきて、再び社会に戻ろうとする。哀しさの中に漂う人間味や生きることの難しさや尊さなど、いろいろと感じることの多い一冊だった。 

穴 (実業之日本社文庫)

穴 (実業之日本社文庫)

 

 ■原宏一さんの世界

 私が原宏一さんの作品で初めて読んだのが「ヤッさん」という一冊。職場のビブリオバトルで紹介されたので読んでみたが、心温まる物語に引き込まれてしまった。

 その他にも、「極楽カンパニー」「佳代のキッチン」「東京箱庭鉄道」など、働く事について考えさせられる内容の作品を多く手掛けられている。そういう点では今回ご紹介した「穴」も同様のことが言えて、働くことの難しさや楽しさなどが描かれている。

 私が原宏一さんの作品を読みたくなるのは、ひとつには物語の中心が人の心の中に設定されているという点だ。「働く」ということや「生きる」ということが真ん中に据えられていながら、それに対して前向きに立ち向かっていく人々の姿に励まされるからだろうと思う。

 また、どの物語でも登場人物に本物の悪人というのが存在しない。たとえ嫌な性格をしていたとしてもどこかで憎めない人物として描かれているため、読んだ後にも爽やかな気分が残るという点も共通している。

 だからこそ、仕事で疲れた時に原宏一さんの作品を読みたくなるのかもしれない。