今まで目に留まらなかった本が、何かの拍子で書店で目に留まる。そんな時に買った本は当たりのことが多い。今回読んだ物語もそんな一冊だった。
■意外な展開に驚ろかされる短編集
交差点での車両事故で、赤信号を無視したと事故の相手から一方的にいわれる兄と妹。兄は事故のけがで他界し、妹は視覚障がいで全く目が見えない。事故相手の証言通り兄妹側の過失として処理されそうになるが、妹の意外な能力で事態は思わぬ方向に流れていく。
二転三転する物語はさらに思いもよらぬ結果にたどり着くことになるが、この辺のストーリー仕立てはさすがに東野圭吾さんだなと思わせてくれる。
この短編集は交通事故をテーマとして扱っているが、どの物語も自分の身の回りで起きそうなことばかりだ。それだけに、読んでいて背筋にジワッと冷たい汗が流れてしまうような感覚を覚える。
交通事故のニュースは毎日テレビや新聞などで報道されていて、非常に身近な出来事ながらどこか他人事に思えるニュースでもある。
「自分が事故の当事者になったらどうしよう」ということは普段あまり考えないと思うが、この物語を読むとそれをヒシヒシと感じさせられるとともに、交通事故にまつわる被害者の憤りや悲しみや法律の盲点などを感じさせられた。
■身近に潜む怖さ
この物語は推理短編小説なので非常に巧妙に複線が張られていて、どの物語を読んでも意外な結末に驚かされる。さすがに東野圭吾さんだなと感心する。
しかし、逆に実際にも起こり得るような話ばかりなので、物語の中の出来事として済ますには少々リアルな面もある。
私自身も若い頃に一度交通事故に遭ったことがあり、それだけに当時のことを思い出して冷や汗をかくような思いだった。
私の場合は出会い頭に車にはねられるという事故だったのだが、幸い相手もきちんとした人だったので小説に出てくるような困った状況にはならなかったが、それも紙一重だったかもしれないなと思う。
気をつけていても事故に遭うときは遭うかもしれないが、それでも気をつけていればそれなりに回避できことも多々あるのではないだろうか。そんなことまで考えさせられる小説だった。