「読んでみたいけど単行本だと少し値段が高いしな〜」という本がいくつもあります。そういった本が文庫化されて平台に置いてあると、ちょっと嬉しくなったりしませんか。今回ご紹介する一冊もそんな“ちょっと嬉しい”出会いの一冊でした。
■多摩川がポロロッカ(大逆流)する?
今日ご紹介するのは原 宏一さんの「東京ポロロッカ」という一冊。ひとつの何気ない噂がきっかけとなって、人生を見つめ直すことになるという短編がいくつも集まっている連作短編集です。
【内容情報】(「BOOK」データベースより) アマゾン川が逆流するポロロッカ現象が、多摩川で起こる!?怪しげな噂は、瞬く間に町々を呑み込んでいく。翻弄される工場の社長やシングルマザー、カフェの店主たち…。だけど、大切な人がそばにいる限り、私たちはそう簡単にくじけない!どこにでもいる人々のそこにしかない絆を、ふんわりとあたたかな筆致で描く。穏やかな感動が胸に沁みる連作小説。
海で波待ちをしていたサーファーがふともらした一言が、大きな噂となって広まって行きます。「多摩川にポロロッカが起きて大災害になる」。そんな荒唐無稽な話が、様々な人々の生活に関わってきます。
ポロロッカが起きるかもしれないという噂自体が書かれているのではなく、その噂によって発生するちょっとした事件が人々の抱える悩みや苦しみに変化を与えて行く。そういった話の展開にグイグイと引き込まれてしまいます。どの話も少し哀しくて、切なくて、最後は心温まる結末を迎えます。
原宏一さんの書かれた物語は、「極楽カンパニー」、「佳代のキッチン」や「ヤッさん」、「東京箱庭鉄道」など、働く事について考えさせられる内容の作品を多く書かれています。
今回の作品はそれらとは少し違って「生き方」ということに焦点が当てられていますが、働き方と生き方は密接に関連していますので、同じように心に染みる物語でした。
年末年始のまとまった休暇の時に、ちょっと一息入れる意味で読むのにも良い一冊だと思います。オススメですよ。
■ポロロッカってどんな現象?
ポロロッカ(Pororoca)とは、アマゾン川で発生する大逆流のこと。現地の言葉であるトゥピー語で「大騒音」を意味するんだそうです。
満月と新月の時には干満の差が大きい大潮となりますが、3月の頃のアマゾン川は雨期にあたっているため大量の水が川から海に流れ込みます。その大量の川の水と大潮で沖から押し寄せる波とがぶつかって起きるのがポロロッカ。
河口付近でぶつかった水は5メートルほどの高さの波になり、時速65キロほどの速度で沿岸から800キロメートル内陸まで押し寄せてくることもあるようです。
この大波の逆流を利用したサーフィン大会も開催されているようですが、いずれにしても自然は偉大で予測がつかないんだなと感じました。